神奈川県議会平成19年3月定例会

3月6日(火)予算委員会での総括質疑のまとめ

1 子どもを巡る諸課題について

松崎       教育基本法第10条にも保護者の責任が明確に規定されているが、親による子どもへの虐待が増えている。育児が困難な親から子どもを預かる、いわゆる「赤ちゃんポスト」も大変大きな話題になっている。こうした現状に対し、新たな視点から、親になるための教育に積極的に取り組んでいくべきであると考える。これについて、何点か伺いたい。

いわゆる「赤ちゃんポスト」の設置について賛否両論の議論が起こっているが、育児が困難な親が子どもを病院等に置き去りにする、あるいは、こうした親から子どもを預けたいと相談があった場合、県としてはどのように対応しているのか伺いたい。

子ども家庭課長   まず、子どもが病院等に置き去りにされた場合には、その病院等から警察へ通報され、警察は児童福祉法に基づき、児童相談所に通告を行います。通告を受けた児童相談所は、子どもの健康を第一に対応するため病院に一時保護を行います。その後、警察の捜査等にもかかわらず、保護者が現れない場合には、その子どもは乳児院に入所措置されることになります。次に育児が困難な親から、子どもを預けたいと相談があった場合ですが、児童相談所が窓口になり保護者の生活状況を調査し、どのような支援を行えば養育することができるのかなどを保護者と共に検討します。その結果、福祉的な支援を受けるなどして親子が家庭で生活できるようになる場合と、子どもはやむを得ず乳児院に入所措置し、子どもの育ちを支援していく場合の二通りの対応となります。

松崎       私自身、子育て支援、不登校の子どもを持つお父さんなど、様々なNPO活動を続けているが、やはり子どもを巡る問題の中に、「赤ちゃんポスト」をどう受け止めていくかということは、行政が責任を果たしていく意味においても、重要であると思う。正直、私としては、「赤ちゃんポスト」は良いこととは言えないが、かと言って、これによって子どもの命が最悪の事態になることが避けられるかも知れない、そういう悩ましさを感じる。「赤ちゃんポスト」の問題をどのように受け止めているのか、知事の率直な所見を伺いたい。

知事       「赤ちゃんポスト」の問題につきましては、委員お話のとおり、賛否両論の声があがっており、厚生労働省からは「違法とは言い切れない」との見解が示されているところです。まず、子どもの安全や健やかに育つ環境を確保する必要があることはいうまでもありませんが、一方で子どもには、「自分の産みの親は誰なのか」、「自分は、なぜ親と離れて生活せざるを得なかったのか」等、自分のルーツを知る権利があります。そうした意味で、親と子を分離させるということは、子どもの将来も見据え、「子どもにとって最善の利益」を十分に考慮した上で、行うべきことであると考えます。今回の「赤ちゃんポスト」につきましては、必要な対応を取った上でのやむを得ぬ措置であると理解していますが、私といたしましては、本来ならば、親自ら児童相談所等に相談をしていただけるよう努めるべきではないかと受け止めておりますし、安易に「赤ちゃんポスト」の設置を認めることはいかがなものかなと思っております。今後は、法的な整備も含めて検討が必要であると考えております。

松崎       今のお答えからすると、県として、「赤ちゃんポスト」を設置していくこと、或いは行政側として認めていく考えがないと思って良いか。

知事       県として、「赤ちゃんポスト」のようなものを設置していくという考えは持っておりません。

松崎       それは、要請があった場合も認めるつもりはないということか。

知事       そのとおりです。

松崎      

「赤ちゃんポスト」の問題は、親の養育放棄(ネグレクト)との考え方もある。子どもの虐待相談や通告は、どのくらいあるのか。

子ども家庭課長   平成17年度の児童虐待相談受付件数は、県所管域で1,239件となっており、これに横浜市、川崎市の政令指定都市を含めると、全県で2,381件となります。

松崎     子どもの虐待は様々な理由によるものと思うが、虐待の発生する背景を把握している範囲で伺いたい。

子ども家庭課長   虐待が発生する背景につきましては、様々な指摘がされておりますが、虐待する側については、アルコール依存、粗暴な性格、精神的に未成熟な親などの問題が指摘されています。また、家庭が経済的に困難な状況にある場合や夫婦が不和である場合、家族や近隣から孤立し子育て不安が高じて虐待に至る場合があるなど、複数の要因が交錯して発生すると考えられております。

松崎       私は、やはり、第一義的には、子と親の関係であるということからすれば、親、そして地域、あるいはそれまでそのご家庭が取り巻かれていた環境といった総合的な観点が、やはり必要なのだろうと思うわけである。実際に、親となった、あるいは、なる前のその人が育った家庭、また地域の教育力、もうこれは低下が叫ばれて久しいわけであるし、わが県においてもそうした観点から新たな条例をこの議会に提案をしているわけであるが、もっと早い段階、たとえば親になる前の高校段階から、学校教育において「親になるための教育」を行う必要も、差し迫った課題としてあるのではないかと私は思うのである。現在、県立高校では、そうした観点に立って、どのような取組を行っているのか。

高校教育課長       高等学校におきましては、現在のところ家庭科や公民科の授業の中で、「親の役割と子どもの人間形成」や「子どもを生み育てることの意義」などについて学習をしております。また、「総合的な学習の時間」や、インターンシップ、ボランティア活動などを実施する際に、保育園や幼稚園において、子どもたちとの交流や保育実習などを行っている学校もございます。あるいは、ある県立高校では「ティーンエイジャーのための赤ちゃんを知る講座」という地域プロジェクトに、生徒を参加させておりまして、「本ものの赤ちゃんと保護者との交流」ですとか、「虐待の基礎知識と里親の愛情あふれるお話」といった数日間のプログラムを経験している学校もございます。県立学校では、各学校が工夫しながら、こうした取組を進めているところでございます。以上でございます。

松崎        今、「家庭科」や「公民」の時間、また、「総合的な学習の時間」、あるいは「インターンシップ」で行っているといったお答えがあったが、それで十分なのか。もし十分だとお考えならば、そうお答えいただきたい。逆に「今後、何か視点が必要だ。考え方をきちっとうち立てなければいけない。」とお考えなのか。どちらなのか。

高校教育課長       先ほど答弁いたしました内容につきまして、県立高校の取組は今のところまだ一部の取組にとどまっている状況でございますので、今後の取組の推進が必要であるというふうに考えているところでございます。その際、推進にあたりまして、各学校で実践されております参考となる取組を集約いたしまして、「親になるための教育」の指導内容や指導方法の基盤づくりを進めていく、こうした出発点に現在ある、そのように考えております。

松崎       今、高校教育課長から「出発点にある」というお答えがあったが、具体的に、平成19年度からは、どういう取組をするのか、お答えいただきたい。

高校教育課長       19年度の取組でございますが、指導内容や指導方法を整えるために、まず、積極的な取組を行っている教員などをメンバーといたしまして、プロジェクトチームを立ち上げまして、実践的な研究やプログラム開発を行っていきたいと考えております。具体的には、学校全体で取り組むことができますよう、基本的な考え方や参考事例などを集めた指導資料を作成し、全校に配布するとともに、「総合的な学習の時間」等で活用できる実践・参加型の指導用プログラムを開発してまいりたいと考えております。また、県立高校で推進しております、地域貢献活動やインターシップなどにつきましても「親になるための教育」の視点を踏まえた活動を積極的に取り入れるようアピールすることですとか、あるいは、PTAやNPO団体と連携した催しを開催することなどを今後検討してまいりたいと考えております。

 19年度は、まずこうした取組に着手しまして、着実な推進を図り、19年度以降、様々な学習機会を活用して、幅広く展開できるよう、取組をすすめてまいりたいと考えております。以上でございます 。

松崎       「親になるための教育」について、具体的なお答えをいただいたが、やはり、この取組を推進していくためには、差し迫った課題であるということの認識がなければならない。「1年間やってみて、結局その後続かなくなった。」とか、逆に言うと、「いろいろ総論は出てくるのだけれど、各論には至らなかった。」ということでは困る。そうした中において、根本にどういう認識を持って取組を進めていこうとされるのか、教育長からお答えをいただきたい。

教育長   「親になるための教育」ということでございますけれども、子育て、あるいは、その子どもと一緒に育っていくということを考えたときに、よく「子どもは親の背中を見て育つ」という言葉がありますけれども、これまでは、かつてその親の生き方を子どもが見て、それを学んで、そしてその子が成長して、また親になっていくということが、普通の家庭で行われていたわけであります。委員からもご指摘もいただきましたけれども、近年は、核家族化とかあるいは少子化、さらには価値観が大変多様化してきたという中で、家庭の中で子育てに関して親子の関係がうまく作れないとか、あるいは、子どもをめぐって、たとえば児童虐待に走ってしまうとか、そういった課題をきちっと、私たちとしても認識していくなかで、学校教育として何ができるかということを考えることが大変大事である、というふうに基本的には思っております。そうした中では、やはり、将来親としてなっていただく生徒の皆さんになるべく早い段階からそういったことにきちっと学んでいただく、こういう必要性が大変高いのではないかというふうに思っております。

具体的に申し上げますと、たとえば思いやりの心とか、あるいは人間関係を形づくっていく力、こういったことを基本的な考え方の中で学んでいただく、そのことによって親になるための基盤ということにもなりますので、そういうことにこれからは力を入れていく必要があると思っております。特に、高校段階、これは非常に、人生の中でも多感な時期でありますので、そこできちっと学ぶことが必要だと思っておりまして、教育委員会では、今、県民の皆様との協働の議論の中で「教育ビジョン」づくりを進めておりますので、その中でも「子育て・家庭教育への応援」というものを大変重要な位置付けとして、取り組みをさせていただくよう考えていきたいというふうに思っております。そういった中で、若い世代が、家庭を持ってからも安心して子育てに携わることができるよう、学校教育だけではなく、地域や家庭の協力もいただきながら、「親になるための教育」ということについて力を入れてとりくんでいきたいと、このように考えております。以上でございます 。

松崎       もう多くは申しませんが、やはり将来親になる、しかも、教育長がおっしゃったように、一番多感な時期、そうした時期にこそ、逆に身に付けるべきものがあるだろう。そうした観点で、骨太の取組をお願い申し上げる。