フィンランドIT視察報告書

サバイバル国家の奇跡の復活
  スウェーデンとロシアに挟まれた人口520万の国フィンランドは、650年にわたるスウェーデン支配と二度にわたる対ロシア戦争の敗北と領土占領を経て今日に至った。その歴史が示すように、フィンランドは常に「自立」を渇望しつつ現状を打開し生き抜くことをそのさだめとしてきた。1989年のベルリンの壁崩壊とその後のIT革命の進展はこの国にとってまさに未だかつて経験したことのない「自立」への道程の始まりであったといって過言ではない。
  電気機器輸出を主軸とする年率2%台の経済成長を順調に維持しつづける今日の発展は、しかしそう簡単に手に入れたものではなく、フィンランドも日本と同様のバブル経済とその破綻を経験した。その桎梏と20%をこえる失業から脱却するため、ITを基軸にして産業構造を劇的に転換させ、90年代中期以降見事な復活を成し遂げたその秘密はどこにあるのか。今回の視察の最大のポイントはまさにここにある。

フィンランド成功の秘密
 産業構造の転換、産官学の連携、電子政府の実現、教育のIT化・・・。どれをとっても既に我が国において叫ばれている。しかし叫ばれながら遅々として進まないのが現状である。ではフィンランドはなぜ実現できたのか?それは、IT立国を目指す明確な国家目標の下で、幅広い経験と人的ネットワークを持つ人材が要所を占め、しかも組織の垣根を越えて流動化していること、そしてその組織自体、産業界でも行政でもボードメンバーのもとで現場主導の意思決定が尊重されていることによる。しかも、ITに関する取り組みはきわめて早く、1980年代初頭から通信の自由化を実施しつつ、産官学協同で主力産業だったパルプから脱却し、既にITへと産業構造の転換を進めていた。

先を見て生き抜く力
 いま携帯電話メーカーとして世界第2位のシェアを占めるノキアが実は以前はパルプや長靴の会社であったことは、フィンランドの劇的な変化を象徴的に物語っている。大国に翻弄されながらもしっかりと生き抜いてきたフィンランドはまた、国際社会との密接な関わりをいかに維持していくかに永年腐心し続けて来た。そのため、小学校低学年から英語教育と並行してITを活用した海外とのコミュニケーションに教育の重点を置き、できるだけ早い時期に、子どもたちに現代を生き抜く術を身に付けさせようと全力を注いでいる。また国レベルでは高い福祉水準を維持するために政府の効率化を推進することを決めて、その中心に電子政府を明確に位置づけ、国鉄や郵便局の民営化とあわせてわずかここ2年で25万人の公務員を12万人にまで削減するなど、国家も国民も年間耕作日数100日という厳しい自然環境と被支配の歴史に鍛えられた「先を見て生き抜く力」をいまやITの場面で遺憾なく発揮している。

この報告書では、<1>経済政策 <2>電子政府 <3>教育政策の3つの切り口で同国の実情をレポートした。ごく短期間の視察に基づくため、不十分な点があることは承知の上で、一人でも多くの方に日本との対比において読み進めていただきたい。また、ご感想ご意見をお待ちしている。
お世話になったフィンランド共和国政府、在日本国フィンランド大使館、各取材先ならびに現地通訳の皆様に改めて衷心より感謝申し上げたい。

<1> 産官学協同を軸とした地域産業政策


フィンランドを世界有数のハイテク立国に押し上げたのは産官学の協力体制である。その特徴は、①企業化・製品化という目標への到達に重点をおき、最後まで評価と見直しを繰り返し資金供給も途中で途切れない、産官学の緊密で機能的な協力体制、②地域ごとに分野を特化し成功企業が新規ベンチャーの顧客兼育成者となっての産業振興、③産官学を貫く分厚い人的ネットワーク、の3点である。
とりわけ行政については、ベンチャー企業を発掘し資金調達から経営・研究開発まで途中の評価・見直しを繰り返しつつ支援を一貫して行う政府組織TEKES(フィンランド技術庁)や中小企業向け研究開発支援の非営利団体VTTなどは我が国に類を見ない公的セクターによるインキュベーション支援の形態である。

TEKES(フィンランド技術庁)
83年に設置された通産省傘下の政府組織で、中小企業の育成を基軸として産官学協同の中心的機能を果たす。研究開発への資金供給・プログラム管理と国内外のネットワーキングを推進。経済が危機に瀕した90年代初め政府は大学への研究開発予算を削減する一方でTEKESから配分される予算を増額するなど産学協同を推進してきた経緯がある。現在国家から配分された440億円を予算とし2300の資金供給プロジェクト、1700社の企業、800の研究機関と連携協力している。ヘルシンキ本部200人のほか、国内14箇所に支部(地方技術局)50人、ブリュッセル・ワシントン・ボストン・サンホセ・東京に海外支局を置く。スタッフの多くは企業からの転職組で占められる。

ラウリラ上級局長他の話をもとに構成
新しい産業分野の成長を促進
TEKESの役割は新規産業分野の成長を促進することである。そのためTEKESは経済発展に強いインパクトを有し社会全体へも重要な影響を及ぼす4つの科学技術分野を特別分野として選んで基幹分野とした。IT、バイオ、物質技術、新生産及びプロセス技術である。分野別に見るとITとバイオに27%ずつ資金が配分されている。
このITをはじめとする各分野の集中的な研究の枠組みが「科学技術プログラム」であり、現在TEKESは60もの科学技術プログラムを全資金の半分をかけて動かしている。各プログラムは3~5年の期間で実施され、大学の研究者・研究機関と企業が共通の目的のために協力している。ITに関する代表的なプログラムは、「ユーザー側に立ったIT」「ソフトウェア産業」「エレクトロニクスIT」「テレコミュニケーション」の4つでそれぞれ6000万から1億2000万ユーロが出資され、30社~144社が参加している。各プログラムはそれぞれ20~51のプロジェクトのユニットを抱えている。
企業はプログラムの下に位置づけられる個別の「プロジェクト」の中で具体的なビジネスを志向し、研究者は高度な品質を保証する。TEKESは99年、2400件以上の研究開発プロジェクトに投資し、企業の研究開発投資を呼び込んだ。TEKESの融資と補助金を含む出資額4億ユーロは企業の研究開発投資額の5%に達する。
研究の成果は、TEKESのネットワークによってビジネスへ提供され商品化されてゆくことになる。
またTEKESは、海外支局を通じたネットワーキングによって、EU、米国、日本などとの国際的な研究開発協力も科学技術プログラムの枠組みに取り入れている。

産学協同のためのプラットホーム
TEKESの企業向け出資には、基本研究への補助金(グラント)と商品化への融資(ローン)の二種類がある。TEKESは技術革新の段階に応じて、補助金または低利子のローンの形で、選んだプロジェクトに研究費用の20~50%の資金を提供している。参加企業にはプロジェクトの初期の段階から各分野の専門家が相談に応じ、協同して研究計画を構築してゆく。最終的なプロジェクト案はTEKES内で雇用効果や売上額、輸出量を含めて評価される。得られた全利益や知的財産権はTEKES以外の企業と研究者の契約により帰属が決まるが大プロジェクトの場合は特許は公開される。またフィンランド国内で研究開発に取り組む外国企業も資金供給の対象になる。
TEKESの本部はヘルシンキ市におかれているが、国内の14箇所の地方技術局が各地域の企業家や革新的技術の保有者を全国ネットワークに結び付け、きめ細かな産官学連携を実現している。

TEKESのユニークで徹底したサポート
TEKESは新技術発掘のため、スタッフが大学や研究機関を歩いて調べ、研究者と議論し検討を加え、レポートを作成。キーとなる技術エリアを探し出し、参加企業を募る。企業の提携を取り付けるため、TEKESは出資の他セミナーやワークショップを開催する。
また実際にプログラムがスタートする以前から評価プロセスを常に実施する。企業・研究機関と3者で、キーとなる技術エリアの事業化の可能性や企業と大学のマッチング、開発技術の優劣の検討、うまくいかない部分の再検討、中間評価、終了後の評価を通してプログラムを管理している。
さらにプロジェクトごとにTEKES・企業・研究機関(ボードメンバー)からなる委員会をつくり年間5回の討議を行い、成果を点検し、見通しを立て、マネジメントを行う。同一のプログラムの下にある個々のプロジェクトは互いにワーキングセミナーを開催して情報を共有している。またその際に新規にプロジェクトに参加する企業を受け入れている。
このように機能的で徹底した協力体制をとるTEKESを支えるのが、研究ばかりでなくビジネスの視点も持っている人材である。分野ごとにプログラムマネージャーがおり、企業の研究所などで長年経験を積んできた人たちがその任にあたる。大学等で進められている研究の中で有望なものを見つけ出し、企業の研究者とともにフィージビリティスタディを行い、核となるプログラムを策定する作業もこのプログラムマネージャーが中心となって進められる。この他のスタッフも企業や大学・研究機関、行政での勤務経験を有し、しかも横につながる分厚い人材のネットワークの一員として流動化している。

産官学協同主体の研究開発投資で産業構造を転換
TEKESでは、ITのなかでもソフトウェアの重要性に着目してこの10年間その開発に重点を置いてきた。また、新しい技術に対する積極的で肯定的な風土があること、モバイルに関しては標準化や北欧統一スタンダードの誕生、そして早期の規制撤廃・自由化(例えば通信の世界では90年代初頭の段階で40の電話会社が既に競争を行っていた)がフィンランドのハイテク立国を加速した。
フィンランドは国全体で99年37億ユーロ、00年44億ユーロを研究開発投資に回しているがこれはGDP比でそれぞれ3.1%、3.3%を占めOECD加盟国中スウェーデンに次いで第二位である。
産官学協同を基軸とした研究開発への投資は、TEKESのような公共セクターが牽引車となって、エレクトロニクスやテレコミュニケーションの分野でノキア社を筆頭にIT産業の伸張と産業構造の転換をもたらし、さらに輸入より輸出が増大している95年以降は民間セクターの研究開発投資が大幅に伸び続けるという図式を生み出した。
 これと時期を同じくして中小企業に対するTEKESの研究開発事業予算の配分は年々増大しており、95年には35%だったのが現在は70%以上が500人未満の企業へ配分されている。その理由は大企業に比べ社運を賭けて研究内容の商品化に取り組む、つまり技術移転の効率が高いからである。
また、毎年1100社がTEKESの出資で新規研究開発プロジェクトを立ち上げており、約3000社がプロジェクトを継続中である。

産業クラスターの構築
このようにフィンランドでは、核となるプログラムとそれに関連する多数のプロジェクトでの研究開発投資を呼び水に産官学協同を推進していることが、主軸となる産業がその周辺産業の競争力を高めてゆく産業クラスターを生み出す源泉になっている。ノキアの伸張以降400~500社のIT産業が誕生し更にそれに続く3000社近い中小企業群。それをTEKESが産官学協同で全面的に支援している姿は日本には見られない、「IT産業クラスター国家」とも呼ぶべきものである。
さらに昨年TEKESは、10年後には5人に1人が65歳以上となる高齢化を背景に、在宅での医療と健康管理に重点をおいた「iWELL」プログラムをスタートさせ50の企業と20の研究グループをプロジェクトに参加させている。資金援助は2000万ユーロにのぼり、まさにITに続く第二の産業クラスター創造へ活動を展開している。

VTT
中小企業の研究開発支援を設立目的とする非営利組織でTEKESと同じく通産省の所管であるが、製品化に向けた産官学連携への出資に重点をおく政府組織のTEKESと比較して、VTTは、多数の技術専門家を擁し長期の戦略調査段階での研究支援に重点を置く点や政府と産業界の共同出資で設立された点に特色がある。

VTTエレクトロニクス調査部門マネージャー ユシ・パーカリ氏の話をもとに構成
技術移転の連鎖を引き起こすVTT
VTTには、エレクトロニクス、IT、オートメーション、化学技術、バイオ、エネルギー、生産技術、建設・運輸の8つの調査部門がある。各部門は分社化され、それぞれ企業との契約により研究開発の支援を行っている。TEKESとの違いは、5~10年かけての戦略調査に重点を置いている点で、ファイナンスもこの部分に絞って行っている。
製品開発に至る流れの中では核となる技術を研究する「立ち上げ」の段階を担当しており、このあと2~5年のスパンでTEKESによる産官学連携(一部はVTTも参加)への出資から製品化へと向かっていく第二段階を経て、企業投資による実際の製品開発・販売つまり最終段階へと進んでいくことになる。これをVTTでは「技術移転の連鎖」と呼んでいる。各段階で投入される研究開発投資総額の対GDP比は81年の1.2%から一貫して増大し、98年には3%に達しているが(この時点で日本の2.7%を抜いた)、VTTでは、04年には3.5%に達すると予測している。
また、VTTは企業との連携で幅広い戦略調査を行うことから、企業内の調査マンを育成したり、大学から実習生を受け入れたり、さらにはアメリカや日本など海外との協力による調査も実施している。現在VTTが未来に向けて的を絞り込んでいる戦略的技術テーマは、データのトランスファー技術、クリーンワールド、安全と信頼性の3つである。

人的ネットワークに支えられたVTTの活動
VTTの8つの部門のうちの一つVTTエレクトロニクスは、366人の技術専門家を抱えており、テレコミュニケーション、マイクロエレクトロニクス、ソフトウェア、光エレクトロニクスの4つの研究課題に分かれて活動を展開している。
フィンランドを代表するノキア関連企業は同社の重要な顧客であり、研究者レベルでの横のつながりが濃くこれまでに多くの技術者がノキア及び関連企業に移籍している。このことは、VTTエレクトロニクスが民間ニーズをキャッチする敏感なアンテナを持っていることと裏表の関係にある。また、ワイヤレスについては、企業とVTTの間の研究プログラムごとに組織されている横のつながりのグループがあり、その顔ぶれは
中小企業からはもちろん、VTT所属の教授、大学教授、ノキア及び関連企業のメンバーである。この他にも企業家、研究者を横につなぐ団体やグループが組織されているので、同社はそれらと関係を深めて戦略調査に関わる助言を得ている。
企業との契約の形態によっては、研究だけでなく製品開発にも直接参加することもあるが、VTTそのものは非営利組織であり、製品化の場合はその一部の開発を分担する形をとる。こうした場合を含め、契約相手となる企業を選択する際の基準は、企業規模ではなく、将来に向けて開発を行っているかどうかという点にあり、資金力よりアイデアを重要視している。

VTTを支えるフィンランドの風土
人口520万という規模から、ITに限らず研究者間の人的ネットワークが強固に構築されており、意見交換や照会が迅速にできる点に加えて、ITでの成功をもたらしたVTTの活発な活動の背景には、この国の労働に対する価値観や文化が大きく関係している。質の高い教育と福祉が行き渡った社会は経済的社会的な格差がなく、VTTを含めて非常にフラットな組織構造を可能にしている。VTTにおいては、応用研究のテーマの決定に際して実質的に権限を行使しているのは、現場に最も近いプロジェクトマネージャーとリサーチャーであり、企業側の何人もの研究者と話し合い現場レベルで議論をはじめて決定していく。トップは研究が主題からそれないよう見守っているのが役目となっている。この組織のありようを内側から支えているのは、仕事において個人の独立性や判断を尊重するフィンランドの風土に他ならない。

起業家精神に満ちた人材の流動化が地域産業を革新
いまフィンランドの研究開発を支える大学は、オウル、ヘルシンキ工科、タンペレの3大学である。オウル市が木材からハイテクの町へと欧州の中でも顕著な変貌を遂げた原因も、オウル大学が技術系部門を設置したことに始まる。VTTエレクトロニクスがオウル市に立地しているのも、オウル大学に電気工学科が設置され優秀な人材が供給されたこと、そしてノキアの研究グループの存在、さらには首都ヘルシンキに研究機能を偏らせないという政府の方針がうまく噛み合った結果である。
オウル大学が供給する若い人材が、VTTにいても自ら起業を志すことは珍しいことではない。つい最近もVTTエレクトロニクスの研究者が友人と会社設立の準備を始めており、来年はじめには正式スタートの予定だ。それに対するVTTのとった態度は、会社設立後もVTTと協力していく契約を結ぶというものであった。このような形でVTTエレクトロニクスからだけでも年間1~2社の新会社が誕生しつづけている。「彼らは我々の顧客になる」これがVTTエレクトロニクスの考え方だという。
また、VTTエレクトロニクスからは、民間企業への移籍も頻繁で、ITがフィーバーしていた時期には約370人の専門家のうち10%前後が毎年移籍をし、ほぼそれに見合う人数の人材が、オウル大学や企業から入ってきた。それに近い状況はいまも続いている。最近でも同社のデジタルプロセシング担当の教授がノキアの研究者から移籍の勧誘を受けている。

テクノポリス社
北欧初の企業集積であるオウル市のテクノポリスに立地するインキュベーター支援企業で、1982年設立。ベンチャー企業を対象に地元オウル大学や研究機関との連携や資金調達、経営管理などを場所と情報の両面で一貫して支援しこれまでに約200社を育成。オウル市からの出資でスタートしたが、99年にヘルシンキで株式上場し民営化(オウル市の出資比率は現在20%に低下)。

ラウノネン社長の話をもとに構成
テクノポリスの整備
オウル市のテクノポリスは1970年代から開発が始まり、エレクトロニクス特にワイヤレスに重点が置かれた。その狙いはオウル市もフィンランド全体もテレコムの全てをリードすることはあり得ないので狭いエリアに特化して「この部門は他者をリードする」というものを作り上げることにある。80年代に入り企業立地が進む中でワイヤレス部門ではたった二人が始めたノテラ社がノキアに買収され、ノキアはそれを境に長靴の会社から携帯電話の会社へと変貌を遂げた。
現在、オウル大学に隣接するサイエンスパークの中に、情報通信を中心とするテクノポリスの他に医療や健康管理を総合病院と連携して進めるメディポリスも整備されている。地域内には5000人の研究者がおり、オウル大学には300人の教授と15000人の学生がいて、企業と大学で意見交換をしながら研究を進める態勢が整っている。

ベンチャー企業育成の手法
起業する場合に、同社はインキュベーターとしてのオウルテック社と連携しながら、ベンチャーと意見交換して大学などの研究機関を結びつけるとともに、ビジネスプランの立案を助け、オウル市や国の出資団体であるSITRAからのファンドや一般企業からのファンドを受けられるようサポートする。この経済的援助は原則として18ヶ月間であり、テクノポリス社は起業から2年後にベンチャー企業の株式を所有する。
技術面でのサポートとしてはオウル大学や非営利組織のVTTからの専門家の助言をベンチャーに与える。そのオウル大学では教授は企業から支援を受けて研究しているので、身分は企業プロジェクトの研究員を兼務している。なお研究の学術的レベルを長期的視野で保つのはフィンランドアカデミーの役割である。
テクノポリス社では家賃は市場価格のまま提供しているが、それでも入居待ちの状態が続いている。それは、家賃の優遇がなくても、オウル大学や研究機関の研究開発援助を享受できること、さらにはテクノポリス社がCOE(Center of Expertise)プログラムの実施機関であり、それに基づくアドバイスなどの情報とサポートが起業家にとっては大きなメリットとなっているからである。

産官学連携と地域振興政策の融合
 COEプログラムとは、フィンランド国内を14の地域に区分し、それぞれ重点産業分野を定め、政府機関や大学などが参加して、長期的な産業政策に関わる検討も含めて研究開発の方向性の検討を行いながら、地域振興につなげてゆこうというものである。
 オウル市では、ハイテクと医療を重点新興産業と定め、COEにはオウル市長を議長に、VTT、オウル大学のほか、ノキア等の一般企業が参加している。ノキアなど一般企業が参加している点が他地域との違いであり、産官学連携と地域振興が見事に融合している。テクノポリス社の役割は、COEでの検討を経て事業化可能とされたものを支援することにある。

企業集積を背景にした戦略展開
テクノポリス社が育てた企業は約200社。ノキアもその一つである。現在テクノポリスに入居する220社の中には中にはオウル大学のキャンパスから誕生したものもある。成功の見込みのついた企業の中には早々と買収の対象になるものも多い。またノキアのような先発企業がITベンチャーを助け育成することも珍しいことではない。テクノポリス社では、こうした企業集積の強みを生かして今後は幾つの企業がITの本場アメリカに進出できるかをテーマにした「コロンブスプロジェクト」を展開していくことにしている。

CCC
オウル市のテクノポリスにある企業で85年に設立。オウル大学出身のサカリ・バーラ社長のもとベンチャー企業としてスタート後、総合病院や大学との連携で「メディメーカー」「セレステ」など健康管理や遠隔医療に役立つソフトを開発した後発のベンチャーを買収し、持ち株会社として現在に至る。

サカリ・バーラ社長・ブロアス博士の話から構成
「メディメーカー」の開発
この製品は、携帯電話やインターネットと組み合わせることによって、医者が離れたところにいながら、患者の目や耳・皮膚を診察し、画像を記録し、医療レポートを保存できるものである。目の診察の場合は、患者は目を閉じたままで看護婦が機器を近づけるだけで眼球の裏側がコンピューターのモニターに映し出され、医者は居ながらにして診察や経過の観察を行うことができる。同じ画像を離れたところにいる医者と看護婦が共有でき、同時にワイヤレスでのコミュニケーションを行うことができる。圧縮技術を駆使した第3世代の新しいアプリケーションである。伝送速度の問題は残るがソネラとの協力で解決に努めている。

健康管理ソフト「セレスタ」
セレスタは、在宅での健康管理用に開発されたソフトであり、オウル市の総合病院と大学の協力(ネットワーク部分にはソネラが協力している)で誕生した。
離れたところにいる患者の症状を画像として収録し、医師が診断を下すことができるもので、オウル市の在宅ケアプロジェクトにも利用され、ホームケアの専門家400人が使用している。
この製品の開発された背景には、高齢化に伴い社会福祉や健康管理に必要な人員の増加を抑制するため、政府が打ち出した在宅健康管理を重視する方針がある。
積極的な売り込み
注目すべきは、これまで主にノキアと連携し欧州市場を中心にしてきた同社が日本へ積極的な売り込み攻勢をかけていることで、すでにNTTドコモやKDDI、(他にソネラ)に商談を持ちかけていることである。同社長は2月に来日してIモードの人気に驚いたといい、ワイヤレス用のソフトとは整合性があると見込んでいる。
日本でも高齢化を背景に需要が高まる遠隔医療の市場に、同社が乗り込む背景に、フィンランド自身の高齢化があり、また距離の克服をITにかける事情も重なっているが、国外進出の背景としては、高齢化の進行する先進国の存在そして、人口520万の国が生き延びるためには市場を海外に求めるしかないという絶対条件が最も大きい。

オウル成功の鍵は?(同社長の話)
 30年以上にわたるオウル大学の存在が大きい。高度な教育水準と北部地方の人の勤勉さが技術やビジネスの能力のある人材を生んだ。産業の振興という点からは企業と大学が協同して研究開発にあたるという姿勢が根本にあることが成功の鍵だ。さらに、中小企業の研究開発が政府の援助によって実質4割以上まかなわれている点も他国にはないことだろう。ただし、製品が出来上がってからどうやって売るかの点ではTEKESのサポートがなく、支援そのものも必要費用の5%に止まる点にも不満はある。また、COEのように企業家の集まりが組織されて人的ネットワークが厚みを持っている点も強みだろう。

プロウェルネス社
医療系の産官学協同を推進するメディポリス内に入居している約50社のベンチャー企業のうちの一つ。社員20人のうちIT技術者18人、健康管理の専門家2人。96年の設立以来、糖尿病患者などの在宅健康管理に関するソフトウェア開発を手がけており、03年までには健康全体を管理するシステムを構築することを目指している。

ライモ・シウルア副社長の話をもとに構成
糖尿病患者の在宅健康管理ソフトで狙う医療のコストダウン
糖尿病はフィンランドでも大変大きな問題で、その健康管理には国家財政の10%にあたる3300億円が費やされている。そこで同社では、健康管理の中心である血糖値の測定・診断に在宅で健康管理ができるソフトを開発し導入したら最大30%のコストダウンが図れると考えたのが「プロウェルネス糖尿病品質管理システム」の製品化のきっかけである。開発には医師、看護婦、患者の他医療経済の専門家も加わったという。
開発されたソフトは、患者が在宅で小さな針のついたIC搭載機器で指先から採血すると、血糖値が測定されネットワークを経由して病院にデータベース化されデータが医師のもとへ送られるもので、測定結果や治療記録の保存・活用もできる。
モバイル環境に対応し、機器も小型で取扱いも非常に簡単であり、セキュリティも高いレベルで確保されている。
このソフトウェアの導入で、患者にとっては日常化している病院の予約も通院による診察も不要になり、医師にとっては、初めての患者でも初診以降の病歴・症状の推移が一目瞭然となるだけでなく、異常値に対してはアラームを発するので合併症などの危険生が高くなっていることを的確に察知できる。従って検査コストや人件費の他、移動や時間のコストも省かれて、社会保険支出の抑制に効果が上がると期待されている。現在、国内20の病院の中ですでに11の病院がこのソフトを採用しているほか、同社はケンブリッジ(英国)、ミネアポリス(米国)、ストックホルム(スウェーデン)に100%子会社などの拠点を設けて海外50の病院向けにもこのソフトを輸出している。
同社は、03年までには糖尿病だけでなく健康全般を在宅で管理できるシステムを開発して、健康管理に関する世界的な主要企業になることを目指している。

メディポリスの利点
資金調達では、同社の立ち上げの時点ではTEKESが支援を行ったが、メディポリスに入居していることで、健康管理のプロジェクトを始める際にEUや政府、オウル市に資金援助の申請を手助けしてもらうことができた。
いま50社が入居するメディポリス(91年にスタート)には約500人の開発技術者が働いている。同社のスタッフが最も感じている入居のメリットは常に新しい情報やアイデアに触れられるという点だ。同じ医療系の開発企業のメンバーとの雑談の中から新しいアイデアのヒントを得ることも多い。さらにヨーロッパ諸国企業・個人との間の交流も盛んである。
また、健康管理を専門とする企業のメンバーで毎月会場を持ち回りにして「ウェルネスフォーラム」を開催し共通する課題の解決を図っている。競争よりも協力を重視しているが技術の盗用などの問題はなく一緒に伸びてきた。

オウル大学の存在の大きさ
メディポリスやテクノポリスを抱えるオウルの発展を考えたとき、医学部と電子工学系部門を合わせもつオウル大学の存在は大きい。企業が大学との協同を重視しているだけでなく、大学も地元オウル市や企業との共同研究に重点を置くようになっている。大学は市や企業と一緒になって新たなビジネスを生み出す核を形成しているとの認識が当たり前になっている。大学での教育内容も学術一辺倒の内容から企業に接近したものに変化している。学生にとっても、研究への手厚いサポートや有望な就職先とのつながりは大変魅力的なものに映っている。

<2>多機能カードによる行政の電子化

行政サービスの電子化の柱として、シティカードやFINEIDなど「多機能カード」の開発普及が進められている。フィンランドでは長年、公平な負担によって高福祉水準を維持していこうという考えの下、国民の住所・氏名・職業・年収・土地・建物など多岐にわたる個人情報が社会保障番号によって管理されており、これをカードと結びつけることで行政サービスの効率化だけでなく、収入に応じた福祉サービスの提供を可能としている。
その特徴は、銀行をはじめ多くの民間サービスプロバイダーに企画段階から参加させてビジネスへのインセンティブを与えていることである。行政はネットワークの安全性や信頼性を高めるインフラとして公開鍵方式の多機能カードを開発し、民間にはその利便性を最大限に活用してもらって、その結果カードの多機能化を進めていこうという発想だ。

情報化社会顧問委員会
第二次リッポネン内閣に直属しフィンランドの情報化の方向を示す合議機関。議長のヘイノネン運輸通信大臣を筆頭にIT企業・貿易業界・NGOの各代表、関係省庁・関係政府組織の代表ら23人で構成。99年4月に同内閣が決定した5つの課題(コンテンツ生産の充実、持続可能社会への変革、産官学協力関係の維持、情報格差対策、電子政府・公共サービスのIT化)に取り組む。

コンガス事務局長の話をもとに構成
IT振興の基礎は通信の競争
フィンランドが、木材・パルプを中心とした伝統的産業からハイテク産業へと劇的に産業構造を転換した背景には、情報通信の早期からの自由化がある。通信政策の観点から見ると1920年の段階で地域電話会社が900社あり、いまでも40社があるという状況で、国の独占会社PTTは長距離(現在のソネラ)通信と国際通信の事業体であり、地域では国家独占はなく早くから多くの電話会社による競争が存在した。
これらの地域電話会社では80年代からデータ通信が始まったが、96年にようやく自由化されたヨーロッパの大勢に10年以上先駆けており、しかも規制は周波数免許のみであって、料金の点で各国より安価に提供されてきたといえる。さらにブロードバンド普及に向けて97年には地域電話会社への規制を撤廃し、EU指令に基づき今年4月にはADSL法を施行してローカルループの競争を開始した。第3世代通信事業者免許は無料であり、ソネラの経営を圧迫しているドイツのような高額競売はない。

産業構造の転換を支援
伝統産業からIT産業へと構造転換を進めるにあたって、スピンアウトした人材に政府は手厚い支援を実施している。失業者の7割を占める労働組合加入者の場合、雇用保険から給与の70%が支払われ、未加入でも生活可能な額を基本雇用援助金として支給される。さらに企業と政府が協力して職業教育を行う「労働マーケットトレーニングシステム」や若い人向けの職業教育が実施されている。
ただ政府の見込みよりも多い50万人が失業しているため給付水準は引き下げる方向にある。この反面ITに熟練した技能労働者は、今後不足が見込まれているため外国から技術移民を受け入れる方針だ。

ITと自然科学に重点をおいた教育
フィンランドは情報化社会を推進するにあたって教育政策の力の入れ方にも比重をつけ、とくにコンピュータ技術と自然科学に重点を置いている。2Gbの大学間ネットワークFUNETを整備し、高校以下の学校のインターネット接続も95年から2年間で完了した。そして今、教育省では4年間かけて「どうやってITで教育を変えていくか」をテーマに研究を行っている。
教育のIT化に充てる国家予算は年間60億円に達する。ハード面での整備に加えて、国の規模が小さく企業が教育ソフトを生産する動機に乏しいので国家が財政支援を行っている。
電子工学科を有するオウル、ヘルシンキ工科、タンペレの3大学をはじめ、大学教育では情報・メディア関連の学科・科目を増設している。単年度の大学入学者は6万人前後だが、現在このうちの1万人がIT関連を専攻する。教育内容の充実を目指した取り組みの一つとして、10年前から大学共通の図書館システム構築が始まり、3万冊の蔵書を有するバーチャル図書館もスタートした。今後はバーチャル大学の開設が目標だ。

ビジネスベースでのIT活用
人口密度が低くビジネス上では支店網の整備が難しいフィンランドでは、電子商取引の普及に力を入れてきた。とくにインターネットバンキングは人口の40%近い200万人が既に利用している。80年代、まだインターネットが登場する以前から銀行は通信を使ったバンキングを行っていたことが大きい。ITを活用した経済創造力ランキングでは既に世界第二位の地位を占め、一人あたりのIT関連支出でもEU平均の2倍を超えるポテンシャルを充分に生かしきるためにも、今後は電子署名や電子請求書(インボイス)といったビジネスインフラの法的位置づけが課題だ。

電子政府の推進へ
フィンランドには、行政の透明性確保に関して400年続く伝統がある。スウェーデン王国の支配にあった当時のフィンランド国会は、「公共の文書は誰であろうと閲覧できる」と決定を下している。この伝統は、「聞かれれば教える」という受身の行政につながっていったが、昨年からは「国民に必要な情報を常に前もって提供する」という積極的な姿勢への転換が進んでいる。
この転換を引き起こしたのが電子政府の推進に乗り出した政府のIM(インフォメーションマネジメント)戦略である。電子政府に対してフィンランド政府はもともときわめて早い時期に注目しており、89年には既に政府文書で触れている。その着眼点は電子政府の導入で公共サービスの効率が向上することと国民やビジネスと政府の結びつきを一層強固で身近なものにできることにある。

国民共通のデータベースが土台
電子政府の推進にあたって貢献したのが国民情報登録システム(※国民登録センターの項で詳述)の存在だ。センサス(国民調査)に基づいて住所氏名などの個人情報、不動産、法人、自動車等に関する国民共通のデータベースが構築されていたのを、いまはIDシステムで接続できるようにし、自治体や企業、病院など2000の団体から入力される最新情報をもとに国民登録センターでアップデートしている。
データ収集の効率性からみると、かつては要員を派遣して実地に行う調査だったため誰も家さえも出られずコストも国民一人あたり700円を超えていたが今はその35分の1にあたる20円にまで引き下げることができた。またデータを入力する側、例えば中小企業にとっても負担が大きくならないようにとの配慮から、政府はソフト会社に要請してビジネスベースで極力簡潔な共通ソフトを開発し運用している。
このデータベースは国民誰もが利用できる。例えば新生児の登録は病院で行い、これをもとに子ども手当が家族に支給される。選挙の投票券の送付もこのデータベースをもとに行われる。今は書類による各種届出も不要になっていて、引っ越すときも電話かメールで自治体に通知すれば済む。ただし、情報の利用や閲覧は野放しではなく、公開されたくない情報を個人がコントロールでき、濫用を監視するオンブズマン制度も組み込まれて充分に機能している。

広がる電子政府のエリアと進む効率化
納税に関してもペーパーレス化が進んでいる。フィンランドでは税務署が各職場の従業員や不動産所有状況の情報をオンラインやワイヤレスで取り寄せ住民宛に課税額を提案するシステムを採用しており、本人が了承すればあとは何の手続も要らない。この電子的なやりとりによって時間と書類が節約されたが、背景にはフィンランドの非常に複雑な税制を簡素化した改革がある。
また、フィンランド国会は世界ではじめて自前のホームページを開設し、ネット上で二つの公用語フィンランド語とスウェーデン語のどちらでも審議記録を読めるようにした。
さらに、フィンランドでは行政に対する利用者(国民)の権利を守る一環として、公務員一人一人の情報を公開してきたが、85年から続くこの制度を電子政府においても守り続けている。
こうした電子政府の推進に伴って政府の役割は、情報や知識を集中させてそれらを取り扱う仕事と再定義され、これによって郵便局と国鉄が民営化され、公共の建物管理も民間企業へ外注化された結果、99年には25万人だった公務員の数はいま12万人にまで減少した。政府機関のホームページは130に上り、気象庁のように天気情報を販売するサイトが30、申請用紙入手可能なサイトが80、公開鍵を必要とするところが若干出てきた。

STAKES(国民健康社会福祉研究開発局)
厚生省の所管ではあるものの、社会福祉や健康管理に関連する行政と国民の現状をサーベイし研究開発全般の方向付けを行う独立性の高い政府組織。年間予算33億円のうち国からは23億円が配分され、残りはEUやフィンランドアカデミーが支出。スタッフは415人で常勤280人とプロジェクトごとに病院や大学から派遣された臨時職員とで構成。90年代に入り進行する高齢化に対処するため、電子政府の一環としてITを活用した在宅健康管理・福祉システムの開発やパイロット事業を推進している。

ヘイッキラ局次長他の話をもとに構成
STAKESの役割
STAKESの役割は、①国民の健康状況の調査と評価・福祉活動の開発、②健康と福祉に関する情報やノウハウの提供、③統計調査とデータベース化、④研究開発プロジェクトへの参画、であり、組織は「健康と社会サービス」「生活の質と健康の向上」、広報、管理の4つの部門からなる。各部門とも100~120人のスタッフで構成されている。
フィンランドの特徴の一つに伝統的な分権主義があるが、教育や消防と並んで健康や福祉の面でも30の公立病院と200のヘルスケアステーションを有する450の自治体(人口最大50万人~250人)にサービス内容の決定権があり、ITを導入・利用するかどうかも自治体に選択権が留保されている。個人が病院やサービスを選ぶことはできない仕組みで供給側にとっては安定的であるが競争は働かない。しかし90年代に入ってフィンランド社会の高齢化が進行する中でSTAKESが設置され、92年には政府が社会保障支出の抑制と相まって高齢者の在宅福祉とそれに対応したケアシステムの充実を推進する方針を打ち出したことで事態は動き始めた。
とくにSTAKESはこの国のもう一つの強い要請である平等主義を背景に、「どこに住んでいても住民が自分の選択した社会福祉と健康に関するサービスを受けられること」を保障するとともに、このような改革に対する大病院などの抵抗に対し厚生省が腰を上げるようにとの狙いも込めて健康と福祉のIT革命=電子政府の実現へとその一歩を踏み出した。

STAKESの全国IT戦略
 96年には、STAKESは「健康福祉IT戦略」を策定し、地域でのIT利用の選択権を留保しつつも、技術的な最終目標として、国民の情報へのコンタクトはインターネットを手段とすることを定め、各病院の患者の記録はインターオペラビリティ(閲覧性の確保)とインターフェイスを基本に電子カルテ化することを決定した。情報セキュリティやプライバシーの確保、患者の自己の情報へのアクセス権も明確化した。そしてこれらをサポートするのに必要な技術開発に乗り出したのである。
 具体的には、①ケア・サービスのモデル、②スマートカード、③プライバシー・セキュリティに関する3つの委員会と、7つのワーキンググループを発足させた。このワーキンググループの中には、通産・厚生・TEKES・フィンランドアカデミーと合同で取り組む福祉健康産業群の育成や、「ITプログラム」、「スマートカードの定義」「法改正」などが含まれる。
 特に、スマートカードについては、20年前から導入している「社会保険カード」を発展的に「社会保障カード」に切り替え、病歴や通院歴、薬歴などの健康情報を入力する目的で制作することとし、公開鍵を使うFinEIDと共通のシステムを想定している。また、法改正については、セキュリティやプライバシーを維持しつつシームレス(継ぎ目のない)サービスを導入するために関係機関同士の情報の壁をなくすことに重点が置かれている。
この戦略のもとで、96年から300の地域プロジェクトがスタートし、電子的健康管理や地域健康情報システムと名付けられた情報の共有化とトランスファーが地域内・地域間で行われるようになった。さらに、モバイルを使って自己の情報にアクセスできるようにしようと、携帯電話によるパイロットプロジェクトも始まっている。また国内外との技術的な標準化作業にも開発と並行して取り組んでいる。

IT戦略の課題と目標
こうしたIT戦略を今後進めていく上でいま、STAKESが課題としている事項がある。①全国共通のインターオペラビリティの確定、②全国の病院が共通して利用できるプライバシーやセキュリティが確保できるプラットフォームの開発、③患者がICカードを使用するために必要な電子署名技術の確立(来年からパイロットプロジェクトがスタート)、④プライバシー保護のための新規立法と高レベルのセキュリティシステム、⑤患者の権利に重点をおいた情報の所有権の法的位置づけ、⑥各種ソフトやガイドブックの統一ルールづくり、である。
STAKESではこれらの課題の克服に取り組み、ケアそのものの品質向上、病院でのサービスから在宅サービス・ケアへの切り替え、糖尿病などの患者自身による健康管理を推進し、利用者自身が受けたい治療やサービスを選択できるように改めていくことにしている。
つまり、従来の高福祉水準を維持しつつも、高齢化社会が進行する中で、健康と福祉の面での電子政府を実現させることで、単に在宅サービスの充実に止まらず、「より効率的でより良質なサービスを病院と患者がともに追求する」態勢を作り出し、これまで与えられるのを待つしかなかった患者(国民)の立場を今後は選ぶ側に押し上げ、競争を通じたサービスの質の向上とコストダウンを図っている。

マクロパイロット事業で地域間のITの共通化を目指す
STAKESでは、こうしたIT戦略の一環として、大きなジレンマとなっている地域間のインターフェイスの実現に取り組むため、今年1月から「マクロパイロット事業」を開始した。これは自治体や病院、ボランティア団体、STAKES、専門学校など40団体の参加のもと、地域間のITを共通化させるための先導的な事業で、ITを活用し地域の壁を越えたパートナーシップの重要性を各地域が共通認識としてもつように支援する狙いがある。
パイロット地域には全国21の「病院地域」のひとつ南西部のサタクンタが選ばれ、①健康サービスへの情報支援、②在宅ケア・サービスへの支援、③情報サービスの創出の3つを目標にスタートした(病院の順番待ちで自分のポジションが分かるようになったことも成果の一つ)。また病院と自治体、ヘルスセンター、社会福祉事務所の間のネットワーク化による情報の共有化にも取り組んでいる。
さらにSTAKESでは、医療や福祉など各分野の専門家の協力を強化し、単なる情報交換だけでなく専門家の意見や知識を誰もが利用できる運営モデル作りも進めている。情報サービスへのニーズが高いことからウェブサイト上では利用者に仮想の案内人がつくようなシステムを考えているという。こうしたモデルの採用決定権も自治体に留保されているため、納得が得られるよう説明をしていく方針だ。
現状では、各自治体や病院などが各々別のプロバイダーやソフトを使用しているため、共通化までには複雑な問題を残している。しかし情報の全国レベルの共有化と活用のためには「テーラーメイドからの脱却」がぜひとも必要で、STAKESでは、サービス提供者の考え方を変えていくしかないとしている。

健康・福祉の電子政府の見通し
 STAKESでは、2~3年後をめどにサンタクンタ以外の3つの病院地域でもシームレス(継ぎ目のない)な情報通信ネットワークを構築し終える一方、今後04年までに電子署名をはじめ一連の法制度を整備する方針だ。この諸制度の中には、現在1000年間の保存が義務付けられている各種記録の保存のあり方を厚生省やデータオンブズマンとともに検討し決定することも含まれている。また情報の所有権については、自己の情報を管理できるようにすることを基本に置くものの、医師や病院の側からは自分たちの得た情報であるという主張がなされているので、解決には10年はかかるとの見通しもある。
インフラはこれからだがソーシャルセキュリティカードの実用化にも乗り出し、バイオメトリックによる本人証明も将来検討するという。
モバイルの活用では、様々な用途を考えていて、レントゲンをはじめとする画像や糖尿病患者の血糖値を医師が遠隔診断したり、ナビゲーションシステムに応用したり、各種案内サービス、さらにはICカードを内蔵させることも予定している。

国民登録センター
69年に設置された内務省下の独立性の高い政府組織で国内の37箇所に地域事務所をもつ。国民情報システムの開発と情報サービスの提供を担っており、毎日2000の組織から情報を集める。
電子政府推進の切り札として、チップを埋め込んだIC多機能カードシステムFinEID(Finland Electronic Identification)を開発し、実用化に入った。

同センターのビルヤネン氏・アールトネン氏の話をもとに構成
電子政府推進の素地
フィンランドでは古くスウェーデン統治下にあった1634年にはマニュアル式で国民情報登録が開始されており、「自己の情報は公的管理に置くことで保護される」という考え方が一般的で、国民登録センターに対する信頼度は高い。登録システムの整備と公的機関への日常生活にまつわる各種届出の義務化により、すでに日本の国勢調査ようなCENSUS(国民調査)は1980年を最後に行う必要がなくなっている。
同センターでは現在、氏名や住所・年齢・職業・出生地など住民情報のほか土地200万件、建物(所有者・借家人・建材・建築工法の情報)200万件、建築計画、そして260万件のサウナの所在や持ち主を把握している。そして、厳しい法的管理(情報授受者に相応しい場合にのみ許可されたデータが提供される)のもとシステム運用形態を監視・検査するデータオンブズマンとも相談しながら、オンラインや電話で公共機関や企業、住民、大学、研究機関に年間2億通の情報を有料で提供している。
生後2時間で全ての子どもには「国民番号」(いまは個人別の電子識別子)が付くこの基本登録システムがインフラとして既に定着していたことこそFinEIDを軸とする電子政府推進の基礎となっている。

電子政府の必要性
フィンランドでは急ピッチで高齢化が進んでおり、2050年には50歳以下の人口の増加が今より僅か1%に止まるのに対して75歳以上の増加は75%にも上る。もともと100歳以上の人の多い長生きの国ではあるが、高齢化社会に対応してより少ない資源をより効率的に利用する必要に迫られていることが電子政府推進の最大の動機である。
また、18歳~45歳で102%に達する携帯電話の普及率の高さや多くの国民がITを利用する現実を背景に、もはや行政が真剣に対応しないと深刻なミスマッチが起きるとの危惧があり、さらには進行中の第二のインターネット革命でいつでもどこでも高速大容量のネットワークにアクセス可能となる時代が到来しており、パーソナル化が更に進行しセキュリティのレベルも高まるとの判断がある。

FinEIDの発想
色々な今までのカード(1枚毎に異なるPINコードのついたもの)をまとめて電子的身分証明の役割を果たすもの、しかも、16KbのICチップを埋め込んで電子署名と暗号化の機能を搭載し、国民がメモリに必要な情報を入力することもできる多目的なカードを作ろうということで、96年から官民一体で取り組みが始まった。
98年~99年にかけては内務大臣や与野党国会議員も参加してパイロットプロジェクトを実施した。また銀行をはじめとする民間部門の協力も大変重要で、多目的なサービスを実施してこそ必要性が高まるとして、いまは25種類のサービスを40万種類にまで増やすことも大きな目標となっている。
電子政府の持つ意味合いは一般に、単なる手続の簡素化や業務の効率化に止まらず、統治する側の政府と統治される側の国民という固定的な位置関係が質的に変化し、これまでの政府がサービスの提供者として市場としての国民から常に評価され、「より効率的でより質の高いサービス」の提供を求められるようになるという重大な転換にある。
この点で、フィンランド政府は既に、国鉄と郵便局の民営化を行って99年には25万人だった公務員を僅か2年で半分以下の12万人にまで削減し、本格的な電子政府推進の準備態勢を整えていることは注目に値する。

FinEIDの概要
FinEIDは、内務・大蔵・通産の各省合同で開発をスタートし、99年12月1日からサービスを開始した。公共セクターのサービスにアクセスするためセキュリティを高めることに重点を置き、電子署名と暗号化を実施した他、プライバシー保護や情報セキュリティの一環として、カードの製造を一箇所に絞り、パスポートや免許証と同じく、使用を希望する個人の登録を待って全国250箇所の警察署で発行することとした。
チップは16KbのRSAプロセッサでPINコードを用いる。チップのうち認証の必要な情報の範囲(8~9Kb)は、書き換えやコピーのできない部分と情報の追加が可能な部分とで構成される、また別に、Free Space(5~6Kb)を設けてあり、カード所有者がダウンロードしたい情報を入力することができる。
システムを作るにあたって日本の公開鍵インフラをベースとし、EUの電子署名標準化ルールに則った。技術的に必要なスペックは民間と共同で考案し組み合わせた。ソフトウェア開発はiCL富士通、カード制作はセテック、コールセンターはソネラ通信、エンドユーザー向けヘルプデスクはノバコール、管理サービスはエリサコミュニケーションがそれぞれ担当した。
実用化当初、まずは警察や社会福祉関係で働く公務員を対象にカードを発行した。カードは申込みから10日間で完成・発行され、現在1万枚が発行済みである。利用方法は、自宅や会社にパソコンを所有していればカードリーダーを設置してサービスを受けることができ、パソコンがなくても公共の建物内のカードリーダーを通してアプリケーションサービスを受けられる。
政府のサービスとしては職業あっせんや学校への書類の送付、税務申告がこれで電子化され、また保育や市営アパートの賃借、ボート・ヨットの係留場、住所移転手続、銀行カードなどの申込みが可能になったが、更に普及させるためには、サービスを増やす必要があり、民間プロバイダーと国民登録センターの間で話し合いが行われている。また、オコ銀行など大手の銀行や保険会社でも新たな電子サービスを開発中である。

FinEIDの将来
国民登録センターでは、今後の普及については有効期間3年のカード(約3000円)とカードリーダーを購入しなければならないことも阻害要因と考えて、eビジネスの増大とともに、より安価なユーザー向けパッケージの開発も検討している。カードの有効期間もパスポートなみに5年・10年に延ばしたい意向である。さらに、携帯電話を通じてモバイルでこのシステムを利用できるようにする考えで、来年にはチップを搭載した製品が出る計画だ。また、03年からはデジタル放送でも一部利用可能にするという。

バンター市
フィンランドで4番目に大きな都市で人口18万人。99年からオウル、エスポー、ポリの3都市とともにシティカードを導入。

アホネン計画主任の話より構成  
City Card (シティカード)の概要
8Kbで10のアプリケーションをカードに取り込むことができるPINコードベースのICカードで、市はまず公務員1万1000人に配布しており150箇所で使える。初期投資は4市総計で1000万マルカ=2億円である。現在、電子マネーとして駐車料金や公衆電話・レストランの支払い、あるいは市営スポーツ施設の利用券代わりに使える。さらには老人や障害者のタクシー券として現在4000人が利用している。
またEUのプロジェクトの一環でギリシア、オランダ、イタリア、イギリスで共通の本人認証の仕組み(Distinctサービス)を導入しており、例えばオランダのキャンプ場でこのカードを差し込むとフィンランド語で必要な情報サービスを受けられる。

電子マネー決済機能を搭載
銀行が設定したウェブ上で個人番号と4桁のPIN(Personal Identification Number)コードを入力することにより、本人確認と情報検索が可能となり、決済用番号を更に入力することで初めて電子決済が可能となる。バンター市では市民に充分IT技術が浸透しているため高齢者を含む市民の80%がCity Cardを使った電子請求や電子決済が可能であると判断している。

City Card (シティカード)の地域におけるメリット
同市では、初期投資の段階ではあるが財政支出節減と効率化を第一のメリットと考えている。またプールやスポーツ施設など市民利用施設の入場券代わりに使えるので、利用状況がわかるから、新たなサービスの開発を考える参考にしている。このほか本人確認など本来の用途によるメリット以外に、同市のイメージアップにもつながるとしている。

カード化成功の要因
企業にとって顧客へのカード利用サービスの提供は、本来一社で行うには莫大な投資が必要だが、このシティカードに参加すれば運輸通信省主導で少ない投資で利益を見込めるメリットがあるのでカード化に前向きである。また国民のPCや携帯電話の利用率が高くカード化へすんなり溶け込める。これらがカード化成功の要因とされる。

今後の課題① 多種のカードの統合
FINEIDやバンクカード(4Kb)など多種のカードが出回っているため、2002~2004年に、バーコード方式の図書館カード、社会福祉のためのKeraカード、VISAカードも含めて1つのカード(コンビカード)にする予定で、CityCardもFINEIDへの統合が検討されている。

今後の課題② アプリケーションの多様化
同市に対して、これまでに住民から寄せられている要望の中では、保健所や保育所など子育てに関する市民サービスへの導入が求められている。アプリケーションの多様化とカードの普及は表裏の関係にあり、同市でも住民のニーズの動向に注意を払いながらさらに多様なカードサービスを展開することにしている。

<3>小学校1年生から始まるIT教育と英語教育

フィンランドではIT教育や英語教育は小学校の低学年から始まる。そして小中高といずれも情報技術を使って英語で外国の子どもとコミュニケーション・交流を深めてゆくことを正規のカリキュラムの中に組み込んでいる。
なぜITを教育に活用するのかが明確であるのがフィンランドの特徴である。絵や音声などを用いた魅力的な教材で楽しく勉強できる点も低学年教育には大切だが、より根本的な理由は、生き抜く手段としてのICT(情報技術を用いたコミュニケーション)と英語を早期に身に付けさせること、そして遠隔授業による距離の克服である。

● 国家教育委員会
政府におけるIT教育の司令塔。とくに96年から情報化社会推進政策を教育の面で主導してきた。

キンモ・コシキネン生涯学習担当の話より
96年からの教育のIT化(情報化社会推進プロジェクト)
国家教育委員会では、学校へのコンピュータ導入、学校間ネットワークの構築、教師のIT教育、児童生徒へのICT教育の4つの分野に重点を置いている。現在生徒10人に1台の割合でコンピューターが配備されているが、これを6人に1台に引き上げていく予定。既に全ての学校はインターネットに接続されWebもeメールも利用されている。
携帯電話が人気で殆どの生徒が自分の携帯電話を持っており、以前は学校に持ち込んでショートメッセージを送ったりして問題になっていたが、今は使い慣れて生徒がエチケットをわきまえるようになった。

国家的課題としての「距離の克服」
 日本の9割に匹敵する国土に点在する520万人の人口。徹底した平等教育と生涯教育を貫こうというフィンランドでは、当然ITの導入は遠隔教育に及ぶことになった。高校レベルでの遠隔教育は1997年から始まり、昨年から80の高校が参加して第二次のプロジェクトを開始した。その直接の目的は高校卒業試験や就職への適応をスムーズにするためという。教育省と国家教育委員会と国営放送が協力してメールと映像を活用したテレビ会議システム(ソフト制作にはトゥルク市のビジネススクールや出版会社、コンピュータ会社が参加)を活用している。対面教育も取り入れながら進めていて、現在中学を卒業した成人の生徒2300人(78%は女性)が学んでいる。

IT教育に力を入れる理由
理由の第一は、一人一人の向上のため。今全科目でコンピュータを使用しており、国家の教育計画にIT教育が明記されている。
二つ目は、地域的に見て平等な教育サービスを実現させるため。国家としてバーチャルスクールプロジェクトを推進し、いま、どの学校もインターネットに接続。全市町村の学校間もネットワークでつながっている。
 ただ通信速度・容量が56.6Kb~1Gbまで学校によってまちまちなので、どうしても速度を落とさざるを得なくなっているのが問題。そこで今後は、第3世代携帯電話を利用することを考えている。

教育のIT化における課題
教師に対する教育が課題である。現在教師の50%以上がコンピュータ関係のコースを取得している。大学の教育センターで行うICT教育法を学ぶコースは最短1週間~最長11週間まであるが、5週間のプログラムに人気がある。なお、この教育法の開発は国家教育委員会のパイロットプロジェクトで行い、市町村は生徒へのICT教育の責任を負う。

産業構造の転換の基礎となった教育の役割
広い国土に人口が散在しているこの国の特性に照らして、コミュニケーションネットワークは必須のツールだったので、企業や学校のIT、コンピュータネットワーク導入に対する積極性が高い。実際10年以上も前に学校で教師が使い始め、特にノキアの成長にあわせてITは爆発的に浸透した。ITの本格的な導入のために国の教育計画を練り直す際も、教育計画そのものが他の国のように細かくなく柔軟なので極めてスムーズだった。
 学校では、もともと大学間をつなぐFUNET(フィンランドユニバーシティネットワーク)が存在したが、いま大学そのものがITに関する最新の知識や情報の集積するセクターとしての機能とICT教育・コミュニケーション技術を研究する機能を果たしている。高校では例えばオウル市の高校ではITに対応した教育法を開発し、家庭では親が子にコンピュータを買い与えている。
このようにITやコンピュータネットワークに対する信頼の高さが教育を変え、ITに強い人材を産官学へ供給する源となっている。

● コナラ小学校
フィンランドのIT教育は幼児教育から始まり、保育所や幼稚園にもパソコンが置かれ、小学校にはインターネットが導入されている。小学校段階で全ての児童が自分のメールアドレスを持つこの国では、低学年の児童によるインターネットやメールの利用が急速に普及していて、教育の中にすっかりITが根をおろしている。
訪問先のコナラ小学校は、教師20人児童270人で各教室の児童数は20人で、ここでも各教室でITを活用した授業が展開されている。

学校長および教員の話をもとに構成
小学校でのIT教育の現状
各小学校にはそれぞれ情報通信戦略があり、それに基づいてIT教育が行われる。コナラ小学校のIT教育は約5年前から開始した。
またITに不可欠な英語教育は、各学校の判断で開始する学年を決められるが、コナラ小学校では、以前の3年生からのスタートを1学年繰り上げいまは2年生から開始している。
同校では、ITを活用した教科教育に重点を置き、コンピュータルームでの授業は児童一人あたり週1時間を確保している。同校のコンピュータルームで現在行われているのは、スペリングのゲームや聞き取りなどによる国語、作文に写真を組み合わせる英語の夏休みレポート作成、さらに算数の授業などであり、画像編集や表計算といったソフトを駆使して応用力を引き出すことにポイントを置いている。またこれとは別に各教室にパソコンを1台配備し基本操作を覚え道具として使いこなせるよう配慮しているが、学校の方針はあくまで使い方より教科学習を重視するというものだ。

北欧全体をカバーする「マチルダプロジェクト」
コナラ小学校で今、力を入れているIT教育の一つが、「マチルダプロジェクト」だ。もともとフィンランド・エスポー市の1小学校でスタートしたこの取り組みは、学校間でネット上で交流するものである。具体的には、毎月一冊の課題図書を選定し、チューター役の教師とともに児童同士がネットを通じて英語で感想を述べ合うものである。国境を越えた学校間の交流に対する評価の高まりから、このプロジェクトはやがてヘルシンキへ更にフィンランド全体、そしていまや北欧全域をネットするまでになり、学年も小学校から中学更に高校にまで広がっている。このプロジェクトで、コナラ小学校はマイクロソフト社からインターネット教育の最優秀賞に選ばれ、3人の児童がビルゲイツと面会、握手をしたという。


児童にITの「免許証」を発行
コナラ小学校では、全ての児童が自分のメールアドレスを持ち、英国の児童とメールを交換し、チャットやhotmailも利用している実情を背景に、3年生までの二年間でITを充分に使いこなせるようになったことを証明する「免許証」を各児童に発行している。チェックする項目はインターネットの活用、メールの使い方、画像の編集、表計算、ネット上のエチケットなど。免許証をもらってからは、教科学習に本格的に力が入れられ、4年生では4ヶ国語で読み取れるロムを使用、やがて中学ではソフトのプログラミングにまで進むことになる。

メリットの大きいIT教育
IT教育の導入後、英語の苦手な児童がこれまでとは違ってゲームなどを通して楽しみながら学べるようになった。学習障害の児童にもキーボードを使う楽しみが生まれ、特殊教育クラスでも専用ソフトで達成感を味わう教育が行えるようになった。
もちろん、全般を通じて授業のやり方が大きく変化し、歴史や物理、算数は教科書そのものがコンピュータソフトになった。
学校では、児童一人一人のIT教育を早期に始めるメリットについて、各自の将来を考えると中学や高校で始めるのは余りにも遅く就職に不利になるから、としている。

手厚い自治体のサポート体制
コナラ小学校には、毎週1~2日必ず自治体の技術職員が訪問して、コンピュータの作動状況をチェックし、メンテナンスや必要なソフトのダウンロードを行っている。
また今年、市全体で約8億円の補助金が小中高校のIT教育に配分され、このうちコナラ小学校には約140万円が配分された。
教師の研修は各学校から大学付属の教育センターへの派遣で行われるが、IT教育の研修を終えた教師には「コンピュータ免許証」が交付され市からノートパソコンが贈られる。ITが苦手だったり不満だったりした教師も含めて今では教師の80%が自分の教科をITで教えられるようになっている。
そんないまの教師には「家庭でもコンピューターを操作しているにもかかわらず、学校ではそれに触れないでいるのはだめで、ITの重要性を考えると初等教育から推進するべきだ。」との共通した強い思いがあるという。

オウル・ノルマアリコウルン・ルキオ高校
オウル大学教育学部に付属する高校で、全国に13校あるITを含む教員研修校(ティーチャートレーニングスクール)の一つであり、生徒数500人。IT教育に重点を置き、導入されているコンピューター250台の全てがインターネットに接続され、授業にも教員の作成したオリジナルのソフトを使用する。フィンランド全体の大学進学率が20%であるのに対し、同高校は60%に達する。

ティモ・ラッピ校長・教員の話をもとに構成
ITはKey for the Future
同高校は語学用教育ソフトを導入しアイスランドと共同でインターネットを使った教育を進めている。95年から始まったこの取り組みは、フィンランド3校とアイスランド1校の学校間で、学校教育の問題点について生徒同士がウェブページとテレビ会議システムを通して議論するものである。
インターネットの広範囲のネットワークを生かすことで、同高校では、国境や地域を越えて、時差も克服して、海外と共有された教育を実現させており、教育の未来を実感させるこの取り組みからインターネットは「未来への鍵」といえるとしている。また同高校では、歴史の授業にもITを導入し、教師が作ったオリジナルのソフトで授業を行ったり、図書館からは得られない情報を検索したりと授業の幅を広げている。なお、教室には25人の生徒に対し13台のパソコンが配備されている。

IT教育で民主政治を学ぶ
さらには、国会や政党について課題を生徒に与えてインターネットで検索させるなど、現代社会との関連をもたせた授業にITを組み入れて生徒の興味や関心を引き出すことに務めている。
 実際、同高校のIT教育の方針には、経済の面で競争能力を高めることと並んで、民主主義を学ぶことが掲げられており、政治家とのメールによる個人的コンタクトが日常的に行われ、ITの持つ「政治と国民の距離」の克服というもう一つの側面に触れる教育が実践されている。

教員のIT教育に重点
一方教員研修では、60名の講師のもと常時150人のマスターコースの学生が研修している。同高校のもう一つの柱、教員研修の中で最も重点が置かれているのがIT教育法の研修である。小学校低学年から全ての子どもがアドレスを持つこの国で教師が生徒以上にITの知識を必要とされる現実は、厳しいものがある。このため、教師の研修に用意されている全体14週間のコースのうちITには4週間が割かれていたが、さらに来年からはこれが5週間に増やされた。