2018年7月6日 常任委員会質疑

(質問要旨) 日米地位協定の改定に向けた県の取組について

(松崎)   

  今定例会の私の代表質問において、日米地位協定の改定に向けた県の取組状況について質問を行った。知事からは、前向きな答弁をいただいたと認識している。その際、知事からは、報告資料にあった相模総合補給廠の火災事故にも言及をされた答弁があり、ボンベの再搬入に関わる現場確認等も行ったところである。そこで、何点か伺う。

1 相模総合補給廠の火災事故で明らかになった日米地位協定上の課題

  知事からは、この火災事故を踏まえ、基地の安全管理の強化に向けた新たな要望を考えているとの答弁があった。具体的に、どのような課題が浮き彫りになったと考えているのか。

三森基地対策課長              

 平成27年8月の火災事故については、米軍の要請に基づいて、相模原市消防が出動したが、火災があった倉庫の保管物が不明であったため、放水開始までに時間がかかった。こうしたことは、基地内の貯蔵物という基地周辺住民の安全に関わる事柄について、日米の間で情報共有という面で課題が明らかになったと考えている。 また、事故後、県では、現場の確認等のために基地内への立入りを求めたが、米軍からは、米側の原因調査中であるとの理由で、発災後から相当程度、基地に入ることができなかった。その後、自治体職員が基地に立入りを求めるような重大な事故は発生していないが、万一の際の自治体職員の迅速かつ円滑な立入りが保障されていないという課題が明らかになったと受け止めている。

(松崎)               2 日米地位協定の改定要望の内容

 今、答弁のあったような課題を踏まえ、日米地位協定の改定要望を考えているとのことだが、その内容について伺いたい。

三森基地対策課長              

 渉外知事会では、昨年、日米地位協定の改定への取組を強化するため、渉外知事会会長である知事が新たな提案を行い、その中で、各構成都道府県が直面している課題や新たな課題について検証を行い、要望内容の拡充に向けた検討を進めることとしたところである。そこで、相模総合補給廠の火災事故での経験を踏まえ、基地の安全管理に万全を期すことや、基地内の貯蔵物について日米の関係機関で情報を共有し、基地周辺住民の安全確保に努めていくことを日米地位協定に新たに規定することなど、本県が現在認識している課題について反映していきたいと考えている。

  また、事故の際の自治体職員の基地内への立入りについては、円滑な立入りができるよう、これまでも渉外知事会を通じて日米地位協定の改定を求めてきており、今後も重点要望として国に求めていく。

(松崎)               3 県内発生事件における県の対応

 県内では、平成18年1月に、アメリカ兵によって女性が惨殺されるという凶悪な事件が起きている。また、平成20年3月には、タクシー運転手が米軍の脱走兵によって殺害されている。いずれも極めて凶悪な事件である。本県において、これらの事件が発生したことを考えても、日米地位協定について刑事裁判手続の問題が大変大きいと考えている。先の代表質問でも、刑事裁判手続について、改定を求めるよう要望をしたところである。平成18年と20年に事件が発生した後、県はどういう対応をしたのか。

三森基地対策課長              

 平成18年の事件については、横須賀市内で女性の方が米兵から激しい暴行を受け、死亡し、金品を奪われるという大変痛ましい事件であった。類を見ない凶悪な事件と認識し、県としては米軍人が関与していることが明らかになってから、直ちに、再発防止、厳正な綱紀粛正を日本政府及び米側に対して要請した。 また、平成20年の事件については、平成18年の事件からわずか2年しかたっていない状況で、再び横須賀市内で殺人事件が起きたことで、綱紀粛正等の徹底を改めて申し入れたところである。 平成20年の事件は、特徴として、犯人が脱走兵であり、脱走兵が東京都内でタクシーに乗り、都内の運転手の方が、横須賀まで乗ってきたところで脱走兵に殺害され、お金を奪われるという事件であった。そうしたことから、これは、本県だけの問題ではないと考え、当時、渉外知事会を通じて、日米地位協定を早急に改定するように国に対して要請した。

(松崎)               4 県による要請の効果について

 今、答弁があったが、そういう対応を取ったことにより、何か改善は図られたのか。

三森基地対策課長              

 平成18年の事件については、事件を受け、地元の横須賀市、住民団体、県、警察、米軍の方も交えて、新たに地域の安全に対する情報交換、意見交換をする基地周辺地区安全対策協議会を立ち上げている。この協議会で、米軍の方も参加する協議会で、様々に自治体や地域の意見を表明したり、米軍の方からも情報提供いただくといった取組を行い、繁華街における米軍のパトロール等も強化された。こういう地域での取組は一定程度前進したと認識している。

  また、平成20年の事件については、先ほど、日米地位協定に言及したが、日米地位協定の改定には至らなかったが、事件の後、日本政府とアメリカ側で協議が行われ、脱走兵の問題について、脱走兵の情報を新たに自治体に情報提供することが日米合同委員会で合意され、現在、脱走年月日、当該基地、最終的に身柄確保の状況等について自治体に情報提供する枠組みができたというところである。

(松崎)               5 日米地位協定上の刑事裁判手続

 日米地位協定上の刑事裁判手続では、従前より、米側から日本側への被疑者の引渡しの時期が問題となっている。先ほど述べた2つの事件について、被疑者の引渡しに問題はなかったのか。

三森基地対策課長              

 日米地位協定の刑事裁判上の被疑者の引渡しの課題については、日米地位協定17条に規定されている地位協定上の原則は、米軍人等が公務外で犯罪を犯して、日本側に一次裁判権がある場合で、日本側が引渡しを求めた場合の引渡しの時期について、起訴後であると規定されている。

  ただし、平成7年に沖縄県で海兵隊による少女暴行事件が起き、その後、日米間の合意により、殺人、強姦といった犯罪の場合で、日本側が起訴前の引渡しを要請した場合には、アメリカ側は好意的な考慮を払うという合意ができた。

  平成18年、20年の横須賀での事件については、日本側がいずれも起訴前の引渡しを要請し、要請どおり引渡しが行われたと承知している。

(松崎)               6 日米地位協定上の問題

 今の答えを聞いていると、被疑者の引渡しには大きな問題はなかったとのことだが、それでは、日米地位協定上の問題はなかった、刑事裁判上残された課題はないと考えているか。

三森基地対策課長              

 本県で痛ましい事件が起きたことを踏まえても、日米地位協定には未だ改善されていない大きな課題があると私どもは考えている。 それは、現行の日米地位協定上の規定、運用改善の大枠は、事件が起きた後、どのように処置していくのかが中心であり、一番大切なことは、米軍人等による事件を発生させない、米軍人等による事件は1件たりともあってはならないということで、米軍人等の犯罪の予防、事件の未然の防止という要素が現行の日米地位協定の枠組みからは大きく欠落していると認識している。

(松崎)               7 刑事裁判手続に関する渉外知事会の検討

 今お答えのあった米軍人等には、軍属を含むと思うが、犯罪予防の観点は大変重要だと思っている。その観点からの取組は、抑止力としての効果も期待できるので、大いに進めるべきだと考えている。刑事裁判手続について、渉外知事会としてどういう検討を行っているのか。

三森基地対策課長              

 現在、渉外知事会において、会長である神奈川県知事からの提案に基づき、地位協定の要望事項を強化するための検討を行っている。その一環として、日米地位協定の刑事裁判手続に関する研究、検討もしており、例えば、その中では、米側の実情、どういった取組をしているのかについて、米軍の法務局の顧問の方に来ていただき、ご講演をいただき、知見を深める等の取組もしている。そうした知見も元にして、要望内容の強化に向けた検討をしたいと考えている。本県としては、日米地位協定を改定して、その中に、米軍人等の犯罪防止、事件・事故の防止を米軍に対して義務付けること、もう1点は、そうした米軍の取組に対して日本側、特に自治体の意見を反映する仕組みを作っていただくことを本県としては提案し、各県と協議をしている状況である。各県の合意があれば、日本政府に対してしっかりと要請していきたいと考えている。

(松崎)               8 米側に求める具体的な内容について

 具体的な犯罪抑止の取組において、米側に何を求めるのか。

三森基地対策課長              

 要望内容として、渉外知事会の中で合意ができれば、日本政府に対して要請し、米側に対しても最終的には要望内容を伝え、ご理解をいただきたいと思う。仮に、日米地位協定が将来改定されて、私どもが目指している犯罪等の防止に関する規定ができた場合に、どういうことを米側に伝えていくのかという点については、1つの仮定ではあるが、大きく2つの方向性があると思っている。

  1つは、私どもの地域、地元の声を丁寧に米側に伝えていく、そのための仕組みを作っていく必要がある。日米同盟は、非常に長きに渡って同盟関係にあり、米軍人、その家族の方が地域にたくさん暮らしている。そうした中で、地元で様々なトラブルに巻き込まれる可能性もある。新たに赴任してくる米軍の方もいるかと思う。そうした方々に、日本の習慣、地域の実情、神奈川県と沖縄県では違う部分もある、そうしたものを丁寧に伝えて、米側の犯罪防止の取組の中に反映していただく仕組みづくりが必要と考えている。 もう1つの方向性は、より専門的な、日本側の犯罪防止に対する知見を米側に伝え、反映していっていただく。それは、神奈川県だけ、基地対策だけということではなく、日本全体、他の都道府県、日本政府、専門家の意見なども集約して、米側に伝えていき、米側の取組に反映する仕組みづくりが必要である。そうしたことを日米両国政府に今後、訴えていく必要がある。現在、まだ仮定の話なので、要請、要望事項の検討とともに、そうした将来の取組について今後、しっかりと検討していきたいと考えている。

(松崎)                確認だが、今お答えになった2点についても検討していくということでよいか。

三森基地対策課長              

 まだ、要請、要望事項の検討中で、大まかな構想の段階であるが、しっかりと検討を深めていきたいと考えている。

(松崎)               9 日米地位協定の改定

 今まで、地位協定の見直しは、答弁の中にも触れられていた運用改善や補足協定に止まってきた。犯罪予防の観点からの規定は、今、答弁を初めて伺った中であるが、全くない。したがって、協定の改定は不可欠と考えるところだが、どのような見解か。

三森基地対策課長              

 私どもは、米軍との様々な地域の安全に関する意見交換の場などを通じて、米軍の内部において独自の知見に基づいて犯罪防止の取組をしていることは、米軍の担当者から聞いている。ただ、問題は、そこに日本側の意見が反映されない、米側に犯罪防止等が義務付けられていないという2つが大きいところであり、日米地位協定の改定は不可欠であると考えている。

(松崎)               10 日米地位協定の改定に向けた今後の取組

 今、お答えいただいたことは、日米地位協定の改定、見直しにおいて大変重要な視点だと思う。是非、要望を行って、日米地位協定の見直しにつなげていっていただきたい。日米地位協定の改定に向けて、今後どのように取り組んでいくか、決意を含めて伺いたい。

秋山基地対策部長              

 日米地位協定の改定を実現するためには、現状の問題点を具体的に指摘し、日米両国政府に改定の必要性を認識してもらう必要がある。

  そこで渉外知事会では、平成25年度以降、改定すべき項目を「国内法適用の拡充」や「米軍による事件・事故時の措置の充実」など、6本の柱15項目に整理し、日本政府に対し、早急な見直し作業への着手を求めてきたところである。

  さらに、米軍による事件・事故などの発生に際しては、緊急要請や特別要請を実施し、日米地位協定の不備を指摘しその見直しを求めてきた。 こうした取組により、補足協定の締結実現など一定の成果は挙げてきたが、日米地位協定そのものの改定には至っていない。

  そこで、昨年度から、渉外知事会としての日米地位協定改定への活動を強化するため、要望内容の拡充に向けた検討を開始したところである。

  この中で、本県からの新たな要望なども含めて、今後、渉外知事会の構成都道府県との検討を進め、今年度実施する要望の内容について詰めていく。

  こうした活動を通じて、今後も、日米地位協定の改定の実現に向け、全力で取り組んでまいりたい。

(松崎)               (要望)

 私どもとしては、やはり、神奈川に暮らす県民の安全と安心を何としても守り、高めていかなければならないということが県としての責務と思うので、是非とも、ここはしっかりと取り組んでいただきたい。特に、今回答弁のあった犯罪を未然に防ぐ、抑止をするという観点は新しい観点だと思う。その観点からの取組をしっかりと進めていただきたい。今後も、日米地位協定の改定の実現に向けて強い姿勢で臨んでいただくよう切に要望する。