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2019年3月1日

(質問要旨) 米軍人等による事件・事故と日米地位協定について

(松崎)

 平成30年の米軍人等による事件・事故について報告があった。事件・事故が繰り返される背景には、日米地位協定の問題があると思う。昨年第2回定例会の代表質問及び本委員会において、日米地位協定改定の必要性について訴えてきた。本日は、事件・事故と日米地位協定の課題について伺いたい。

 報告事項のうち、犯罪検挙件数を見ると、平成30年は、前年と比べると明らかに増えている。その理由等について、把握していることはあるのか。

(県側)

 政策局の常任委員会報告資料の16ページに記載している、犯罪検挙件数であるが、県警の調べに基づき記載しているものであり、平成30年は23件と前年から6件増加している。

 増加の理由であるが、県警に確認したところ、薬物犯が12件と前年から6件増加するなどしており、これが平成29年に比べて増加した要因と捉えることができる。

(松崎)

 過去5年間の件数について報告いただいているが、米軍犯罪の全体的な傾向について、県としてどのように認識しているのか。

(県側)

 米軍人による犯罪が、平成29年以降、増加傾向を示していることは、非常に重く受け止めている。

 資料は、直近5か年の犯罪検挙件数を記載しておりますが、平成20年以降の検挙件数をみますと、最も多い年が、平成21年の28件、最も少ない年が、平成26年の11件となっている。この間、10件台から20件台の範囲で推移しているというのが傾向として捉えることができます。

 また、平成18年と20年には、米軍人による殺人事件が発生しているが、それ以降は殺人という重大な犯罪は発生していないことも最近の一つの傾向である。

 しかし、米軍人による犯罪は、一件であっても発生してはな らないものであり、より一層、米軍における犯罪防止に向けた教育の徹底が必要であり、今後も、国や米側に実効性のある取組を強く求めていく。

(松崎)

 米軍による犯罪が繰り返される背景には、日米地位協定の課題があると思うが、県としてどのように認識しているのか。

(県側)

 犯罪の発生には、それぞれ原因があると考えられるが、日米地位協定の課題を是正し、犯罪の発生を抑止することも、犯罪を減少させることにつながると思う。そういった意味で、米軍による犯罪が繰り返される背景には、日米地位協定の課題があると認識している。

 現行の日米地位協定において、刑事裁判手続き等に関しては、次のような課題がある。

1 被疑者の身柄の取扱い

 ・公務外で米軍人等が犯した犯罪については、日本側が優先的に裁判権(第一次裁判権)を行使するが、その場合、米側が被疑者の身柄を拘束した場合は、日本側への身柄の引渡しは、起訴後である。

※ 平成7年の運用改善により、凶悪な事件に限っては、日本側の要請に基づき、起訴前であっても身柄を引き渡すことが可能になった。

2 公務中の事件・事故の措置

 ・公務中に米軍人等が犯した罪については、米側が優先的に裁判権(第一次裁判権)を行使するため、公務中の事件・事故については、重大な犯罪や悪質な犯罪等、社会的な影響が大きいものであっても、原則として、日本側において裁判権を行使することができない。

   ※ 公務中か否かの判断は、米側が行う。 

3 基地の外における米軍財産の捜索・差し押さえ

 ・日本国の当局は、捜索・差し押さえの対象となる米軍の財産が、基地の外にある場合でも、米軍の同意がなければ、捜索・差し押さえ又は検証を行う権利を行使できない。

   ※ 主に航空機事故において問題となってきたが、犯罪捜査においても支障となる恐れがある。

 また、現行の日米地位協定では、米軍人等は日本において、日本の法令を尊重することを義務付ける規定はあるが、米軍人等の犯罪防止そのものを義務付ける規定はないことも課題である。

(松崎)

 昨年、渉外知事会において、新たな取組として、日米地位協定に関する特別要望を行ったと承知している。刑事裁判の問題について、どのような取組を行ったのか、確認のためお伺いしたい。

(県側)

 平成29年度の渉外知事会総会において、日米地位協定の改定等に向けた取組を強化するため、要望内容の拡充に向けた検討を開始することを決定し、その中で刑事裁判手続きについて、課題等を研究していくこととした。

 その後、専門家を招き研修会開催するなど、現行の要望に反映されていない課題について検討を行い、新たに提案すべき事項を整理し、昨年7月に、国に対し特別要望を実施した。

 特別要望では、刑事裁判手続き関する日米地位協定の課題について、まずは、政府として検討を行い、改正案を早急に取りまとめることを、 併せて、現行の日米地位協定では、米軍人等の犯罪防止そのものを義務付ける規定はないことから、米国政府は平素より、米軍構成員等に対し教育・研修を徹底するなど、犯罪防止のための取組に努める旨、新たに地位協定に規定することなどを求めた。

(松崎)

 現在、米側が行っている犯罪防止の取組にはどのようなものがあるのか。

(県側)

 これまでに国や米軍基地から得た情報でお答えする。

 県内の米軍基地ででは、日本に赴任する米軍人等については、その家族も含めて研修を行っている。これは、赴任者全員が対象であり、日本に初めて赴任するもの以外の軍人等も受講する。

 研修は、犯罪防止はもちろん、日米の文化・習慣の違いへの理解、交通ルール等について、全5日間。また、自動車の運転については、赴任者研修とは別に、運転のための研修を受けないと基地の内外を問わず運転は認められていない。

 また、制度として、米軍人の夜間外出についても制限があり、例えば3等軍曹相当以下の隊員は、午前1時から午前5時までの基地からの外出が禁じられており、飲酒についても制限があり、全ての隊員が、午前0時から午前5時まで、基地の外での飲酒が禁止されている。

 今申し上げた、外出や飲酒の制限については、米軍人等による犯罪や事件が発生した際には、外出禁止やアルコールの摂取の禁止といった、より厳しい制限が加えられてきている。

(松崎)

 日米地位協定改定に向けて、今後も積極的に取り組んでいただきたい。一方で、地位協定は、締結以来、一度も改定されてこなかったという現実がある。改定が進まない理由をどのように分析しているのか。

(県側)

 日米地位協定の改定について、日本政府の見解は、協定については、その時々の問題について、地位協定の運用の改善により機敏に対応していくことが合理的であるとの考えの下、運用の改善に努力していく、という考えが基本スタンスとなっており、協定そのものの改定に踏み込んでこなかった。

(松崎)

 国は地位協定の改定よりも、まずは運用改善に取り組むとの考えとのことだが、これまで行われている運用改善にはどのようなものがあるのか。

(県側)

 刑事裁判(第17条関係)に関するものとしては、(先程も答弁で触れた)平成7年に合意された米軍人・軍属の起訴前の日本側への拘禁移転に関するものや、平成23年に合意された公務の範囲の見直しに関するものなどがある。

 米軍人・軍属の起訴前の日本側への拘禁移転に関する運用改善は、平成7年に沖縄県で発生した少女暴行事件を受けて、米軍人等の身柄の引渡しに関して日米間で協議した結果、殺人及び強姦について、起訴よりも前の段階で日本側への身柄の引渡しがなされる途が開かれたものである。

 なお、国の公表では、合意後、日本側への身柄引き渡しの要請は6件あり、うち5件について、引き渡しが実現したとのことである。

 公務の範囲の見直しに関する運用改善については、公の催事での飲酒の場合も含め、飲酒後の自動車運転による通勤は,いかなる場合であっても、日米地位協定の刑事裁判権に関する規定における公務として取り扱わないこととすることで合意したものである。(行政協定の見直し)

 それまで、米軍人等の公の催事での飲酒後の自動車運転は公務として扱われ、米側に一次裁判権があったが、この合意により、米軍人等による飲酒運転は、いかなる場合で公務外として扱われ、日本側に第一次裁判権があるものとなる。

 また、刑事裁判手続き以外の分野でも、例えば県内の基地の関係するものでは、厚木基地の騒音軽減に関する措置の合意(昭和38年合意、昭和44年に一部改訂)などがある。

 さらに、運用改善に関して、従来の日米合同委員会合意より高いレベルで、国家間の協定として、補足協定を締結した例もある。

 具体的には、軍属の範囲を明確化する軍属補足協定(平成29年締結)や、在日米軍に関連する環境管理の協力促進のための環境補足協定(平成27年締結)がある。

(松崎)

 日米地位協定の運用改善について、どのように評価しているのか。

(県側)

 これまで、国と米側は、多くの基地問題について、発生する都度、運用改善で対応してきている。

 運用改善で対応できるものは積極的に取組むべきと考えるが、米軍基地に起因する環境問題、事件・事故等を抜本的に解決するためには、日米地位協定の改定は避けて通れないものと考える。

(松崎)

 まずは、日米地位協定の改定に向けて働きかけることが重要である。同時に、改定が実現するまでの間は、現在ある条文を適切に運用していくことも、必要な取組であると思う。第2回定例会の本常任委員会において取り上げたように、池子住宅地区の横浜市域については、新たな住宅建設が取りやめとなり、日米地位協定第2条に定める返還の条件が整ったと考える。横浜市域の返還について、どのように取り組んでいくのか。

(県側)

 (委員ご指摘のとおり)日米地位協定の第2条には、米軍は基地の使用が終了したときには、日本側に速やかに返還するという趣旨の規定がある。

 そのため、これまでも、県では関係市と連携し、遊休化している基地等について、重点的に返還を求めてきた。

 池子住宅地区の返還についての取組は、池子住宅地区が横浜市と逗子市にまたがる関係から、横浜市と逗子市の意向を基に、横浜市域と逗子市域を分けずに、基地全体の将来の返還を求めるというものであった。

 その後、平成16年10月の横浜市域への住宅建設等の日米合意を受け、当時の目標として、池子住宅地区の横浜市域については、約1haの飛び地について、周辺住民が災害時に避難場所等として利用を図ることができるよう返還を求めることとなった。

 昨年11月の日米合意では、横浜市域への家族住宅の建設取り止め等の決定があったことから、今後の返還等の取組をどのように進めていくか、横浜市と協議を行い、今後の対応について早急に検討する。

 そのためにも横浜市域の今後の動向について国に早期に情報提供を行うよう働きかけるとともに、地元の意向に沿った返還を早期に実現するよう取組を進める。

(松崎)

 米軍の犯罪の問題に戻るが、米軍人等の犯罪防止に向けて、どのように取り組んでいくのか。

(県側)

 在日米軍は我が国の安全保障のために駐留しており、そうした軍人が犯罪をおこすことはあってはならないものである。

 そのため、これまでも、県と基地関係市で構成する「神奈川県基地関係県市連絡協議会」では、米軍人等による犯罪及び迷惑行為などが発生していることから、教育・研修に努めるなど真に実効性のある対策を講じ、再発防止に努めるとともに、その具体的な対策等について情報提供することを求めてきた。

 また、実際に犯罪が発生した際には、規律の厳正な保持や、教育訓練の徹底などを米軍に働きかけるよう、国に強く求めてきている。

 本県には多くの米軍人が居住しており、また過去には、県民が犠牲となる犯罪も発生している。

 このため、米軍人等による犯罪については、非常に重く受け止めており、今後もその防止に向け、国に強く働きかけていく。

(松崎)

 最後に、日米地位協定の改定に向けて、どのように取り組んでいくのか。           

(基地対策部長答弁)

 日米地位協定の改定を実現するためには、現状の問題点を具体的に指摘し、日米両国政府に改定の必要性を認識してもらう必要がある。

 そこで渉外知事会では、平成25年度以降、改定すべき項目を「国内法適用の拡充」や「米軍による事件・事故時の措置の充実」など、6本の柱15項目に整理し、日本政府に対し、早急な見直し作業への着手を求めてきたところである。

 さらに、米軍による犯罪や事故の発生に際しては、緊急要請や特別要請を実施し、日米地位協定の不備を指摘しその見直しを求めてきた。

 こうした取組により、補足協定の締結実現など一定の成果は挙げてきたが、日米地位協定そのものの改定には至っていない。

 そこで、昨年度から、渉外知事会としての日米地位協定改定への活動を強化するため、要望内容の拡充に向けた検討を行い、昨年7月に、特別要望として取りまとめ、国に地位協定の改定に向けた米国との交渉を早急に開始することを強く求めたところである。

 今後とも、基地に起因する様々な課題を抜本的に解決するため、日米地位協定の改定に向けて、取組みを進めていく。

(松崎)(要望)

 米軍人等による事件・事故、特に犯罪が繰り返される中で、その背景にある日米地位協定の課題について掘り下げた。基地周辺住民の安心のため犯罪防止に努めるとともに、背景にある日米地位協定の改定に向けて取組を進めていただきたい。併せて、基地問題の重要課題である、基地の返還にもしっかりと取り組んでいただきたい。