令和5年6月 29 日 総務政策常任委員会 質疑記録

(松崎委員)
本県では、ヘルスケア・ニューフロンティアの取組として、未来の医療である再生・細胞医療等を産業化するため、2016 年に再生・細胞医療等の拠点として川崎市殿町にライフイノベーションセンターを開設するとともに、産学公のネットワークの整備など、取り組みを進めてきた。
そうした取組の成果として、国の資金を獲得してさらに、実用化に向けた取り組みを加速させるとのことである。
そこで、再生・細胞医療の産業化に向けた取組について、何点か伺いたい。
まず初めに、再生・細胞医療等を産業化するとのことだが、再生・細胞医療分野の世界や国内の市場規模や、国内の現状について確認したい。

(常山ライフイノベーション担当課長)
国の令和2年の推計によると、再生医療等製品の分野の海外の市場規模は、2030 年に 12 兆円、2050 年には 38 兆円、国内の市場規模は、2030 年に 1 兆円、2050 年で 2.5兆円の規模になると想定しています。
また、現在、国内の再生医療等製品は、火傷した皮膚を再生した細胞のシートで修復する製品や、目の角膜を再生する製品等の 19 種類が再生医療等製品として承認されています。

(松崎委員)
県として、川崎市殿町地区において、再生・細胞医療の産業化に取り組むねらいとこれまでどのような取組を進めてきたのかについて伺いたい。

(常山ライフイノベーション担当課長)
県としては、世界的に成長が期待できる基幹産業として、再生・細胞医療をターゲットとし、その産業化拠点として殿町にLICを設置することで、殿町地区に関連の産業集積を図り、経済活性化の起爆剤としたいと考え、これまで取り組んできました。
また、再生・細胞医療の実用化に向けた連携体制を構築するため、2016 年 10 月に、LICの入居企業等を中心に、RINKを設立し、細胞の培養や加工など、さまざまな事業者がそれぞれの役割を果たすバリューチェーンの確立を目指し、令和5年5月末現在、169 の企業や研究機関等が参加するまでに成長しています。

(松崎委員)
再生・細胞医療の産業化に向けて、国内で本県のように力を入れて取り組んでいる地域は他にあるのか。また、川崎市殿町地区は、他の地域と比べると、どのような強みがあるのか。

(常山ライフイノベーション担当課長)
本県のほかに、関西にも、再生・細胞医療の産業化に向けて力を入れて取り組んでいる地域がいくつかあると承知しています。具体的には、京都府、大阪府、神戸市などです。
例えば、京都では、京都大学 iPS 細胞研究所 CiRA(サイラ)を中心に、iPS 細胞の提供や更なる医療応用など、アカデミアの研究を中心に産業化に向けて取り組んでいると承知しています。
また、殿町地区では、再生・細胞医療分野の品質評価を行うことができる基盤を構築できていることが一番の強みです。具体的には、実験動物中央研究所、国立医薬品食品衛生研究所、県立産業技術総合研究所、県立保健福祉大学ヘルスイノベーションスクール等が連携し、細胞の品質や有効性を確認する評価を行っています。

(松崎委員)
関西の方でもそういった取組みがあり、川崎殿町地区は品質評価の強みがあるとのことだが、再生細胞医療の産業化に向けては、他の地域と競い合うよりも、それぞれが、特徴を生かしながら連携して進めることも重要だと思うが、県の考えを伺いたい。

(常山ライフイノベーション担当課長)
県としては、本県の強みである細胞の品質評価等の基盤を活用しながら、より多くの企業が本県に来ていただきたいと考えています。一方で、再生・細胞医療の産業化に向けては、細胞の提供、運搬、加工、培養、保存等、様々な関係機関が連携して初めて、患者さんに届けられる体制となり、産業化につながっていくものだと考えています。このため、委員ご指摘のとおり、本県の強みはしっかりと生かしつつも、他の地域との連携は大変重要だと考えています。

(松崎委員)
県としても他の拠点との連携の重要性は認識しているようだが、具体的な連携は始まっているのか。

(常山ライフイノベーション担当課長)
例えば、コラーゲンやゼラチンはともに昔から人工皮膚や人工骨の原料として使用されていますが、細胞の培養にあたっては、細胞シートの間にゼラチン粒子を挟むことで、細胞の壊死を防ぎ、細胞シートの重層化に成功し、今後、重症心疾患の新しい治療法としての応用が期待されています。また、再生医療の実用化が進むにつれ、国内や国外への細胞の輸送方法についても、コラーゲンやゼラチンで細胞や細胞シートを包むことより、輸送時の衝撃から細胞を保護するとともに、高い生存率を維持したまま長期間輸送することが期待されています。このように、再生細胞医療の実用化に向けて重要なゼラチンの国内シェア1位で、細胞の輸送に適した新規のゼラチンを開発している大阪の企業が、RINKに参加しており、他業種の会員と交流を図りながらの連携が始まっています。

(松崎委員)
他には事例はないのか。

(常山ライフイノベーション担当課長)
9年前の 2014 年に「加齢黄斑変性」という重い目の病気の患者に対し、iPS 細胞から作った網膜組織を移植する世界発の臨床実験を実施した神戸の企業が、昨年度からRINKに参加しています。この神戸の企業とRINKとの連携によるセミナーでは、日本での「新たな先進医療等」の枠組みの構築に必要なことについて、活発な議論が行われました。その企業の担当者からは、技術は症例を重ね、多くの人に使える良い治療だと言ってもらえる段階に来たと感じている一方、治療にかかる費用は数千万円と高額となることが課題で、質の高い細胞を使っても、患者の体質や病気の進行などによって効果に差があることもわかったという話も聞きました。
この神戸の企業には、今年度、RINKのワーキンググループに参加いただき、意見交換や議論を深めながら、連携を図っていきたいと考えています。

(松崎委員)
答弁をお聞きしていると、一般社団法人化したRINKが神戸や大阪といった他地域の実際の企業とも既に連携が始まっているようだ。今後RINKが連携の大きな窓口であり、かつ連携する実態そのものであるという理解でよろしいか。その辺ちょっと説明していただきたい。

(常山ライフイノベーション担当課長)
委員ご指摘の通り、一般社団法人化したRINKが様々な地域、企業、研究機関、アカデミア等とのコーディネートをする役割を担うことになるので、一般社団法人RINKが中心となって進めていきたいと考えております。

(松崎委員)
すでに他の地域との連携は始まっており、そして、これからいよいよ本格化していくという、ちょうどそういう節目の時期なのかなというふうに思います。
それだけに、今回お聞きしていることは大変重要なことなのだなということを感じるわけですけど、今後、どのような連携をしていくのか。

(常山ライフイノベーション担当課長)
国の資金約 14 億円も活用して、再生・細胞医療の産業化に向けて取り組みを進めていきます。
具体的には、今年度中に羽田地区へ藤田医科大学が進出することが決定し、慶應殿町キャンパスに再生細胞医療の研究室等を整備することにより、殿町地区で技術を育て、殿町地区の隣の大田区で再生・細胞医療の治療や診療を連携して実施する体制が整います。また、全国の再生・細胞医療に関連する企業からRINKに連携等の相談も寄せられていると伺っています。そこで今後は、RINKがこれらのコーディネートの役割や、引き続き全国の企業からの相談対応を行いますが、県としては、羽田・殿町地区を拠点とした、東日本における再生・細胞医療の実用化に向けて、RINKや他の地域との連携を図りながら、いち早い治療が地域で展開できるよう、支援していきたいと考えています。

(松崎委員)
具体の再生細胞製品等は、どのようなものを想定しているのか。

(常山ライフイノベーション担当課長)
現時点での想定になりますが、1つは、骨軟骨再生医療製品で、将来的には変形性膝関節症も対象疾患として開発を進める予定です。変形性膝関節症は、体重や加齢などの影響から膝の軟骨がすり減り、膝に強い痛みを生じるようになる病気ですが、国内にも多くの患者さんがいるため、再生医療の実用化に大きな期待が寄せられています。また、スポーツ外傷である靱帯断裂を早期に修復するために、脂肪組織から取り出した他の細胞に分化する細胞を活用した治療の開発も予定しています。
靱帯断裂では形成手術が行われますが、手術の課題として、再建した靱帯の強度が不十分で再断裂の恐れがあることや回復期間が長期に及ぶことがあるので、形成手術に再生医療を併用することで、靱帯を短期間に再建することが期待されます。

(松崎委員)
先ほどご答弁の中に東日本という言葉がありましたけど、医療に限らないと思いますけど、今回の場合は先進的なこういう医療とか再生医療とか細胞とかそういう関係のことというのは、必ずしも東日本に限定するものではないんですよね。例えば九州にお住まいの方が、神奈川でこうした技術が開発されたら、ぜひそれを自分にも適用して欲しい、と願われるのはある意味当然のことであります。そのためにどうすることができるのかということは、自治体である神奈川県が、やはり、その方がお住まいの自治体の方々と、その方の相談に対して何かしら協力できるのであればそれは大いにした方がいいと思います。
逆に九州の方で何かが開発されたとしたら、神奈川においてもということもあるかと思う。
そういう形で、ぜひやわらかく柔軟にここは対応していただいて、大阪や神戸からという話がありましたけど、そういう形で地域間あるいは企業とも柔軟に連携していって欲しいと思うんです。
最後に、県として再生・細胞医療の産業化に向けた決意を科学技術・ライフイノベーション担当部長から伺いたい。

(穂積科学技術・ライフイノベーション担当部長)
再生・細胞医療を産業化していくためには、細胞を提供する医療機関から始まり、輸送、培養、加工、保管、臨床をする医療機関と、様々な関係者との連携が必要です。
そのためにも、他の地域で再生・細胞医療に携わり、優れた技術を持った企業等の関係者の皆様との、連携を進める大変重要なことと認識しております。一般社団法人化したRINKを核としながら、県としてこれまで培ってきたノウハウ・ネットワークを活かしながら再生・細胞医療の産業化に向けて取り組んで参ります。
このRINKの理事である慶応義塾大学病院の中村先生が、脊髄損傷の患者様の会で、再生・細胞医療の話をした際には、私もお話を伺いました。患者のご家族の方から、希望をいただき感謝している、少しでも早く私たちに届けてください、との声を掛けられています。
神奈川県としては、再生・細胞医療を産業化することで、県内の経済活性化につなげるとともに、この技術に希望を託し待っている方々、今委員からお話ありました、日本中の方、世界中の方に少しでも早く届けられるよう、今後もしっかりと取り組んで参ります。

(松崎委員)
先進分野・先端分野というのは医療に限らず、こういったコンソーシアムというものを設立して取り組んでいくという、ある種オーソライズされた形ではあるのですけれども、やはり実際神奈川県が旗を掲げてきたということが非常に多くの方々から反響を呼び、そしてここまで発展してきたのというのが、ヘルスケア・ニューフロンティアの特色だと思います。ぜひそこは責任の所在という意味でも、県の存在は、これからもきちんと明確にしながら、取り組んでいっていただきたいと思います。
ぜひ、この再生医療ネットワーク東日本ということでありますが、社会実装に繋がるように、産学公の連携をさらに強化していただきかつ、他地域との連携を強化しながら産業化に向けて、実をあげていただくように要望して、私の質問は終わります。